これからの外国為替場の行方 第106回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2019年2月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
ユーロドルの戻りには自ずと限界がある!
前回更新分の本欄で、筆者はユーロドルについて「昨年(2017年)1月安値から今年2月高値までの上げに対する61.8%押しというのが1.1200ドル処。まずは、同水準あたりが一つの下値の目安ということになると思われる」などと述べた。
そして案の定、ユーロドルは11月12日に一時1.1214ドルまで下押したところで一旦下げ渋って反発する展開となった。その時点でユーロやポンドを取り巻く状況が大きく好転したわけでもないことを考えれば、やはり「そこはテクニカルに反発した」と捉えるのが正解であろう。
なお、1.12ドル処で下げ渋って一旦反発したユーロドルは同月19日、20日に1.145ドル処を試した後、再び下げに転じた。そこは、チャート①にも見るとおり、9月24日高値から11月12日安値までの下げに対する38.2%戻しの水準にあたるところであり、また9月下旬以降に3段下げを演じるなかでの一つの節目として意識された水準でもある。つまり、またしてもユーロドルは「テクニカルに上げ渋った」わけである。
その意味からして、次に下値の目安として認識しておかねばならないのは、まず1.1000ドルの心理的節目ということになろう。仮に同水準をもすんなり下抜けた場合は、次に昨年(2017年)1月安値から今年(2018年)2月高値までの上げに対する76.4%押しの水準=1.0862ドルあたりが意識されるということになるだろう。
もちろん、足下で再び反発した後、直近(執筆時)高値の1.145ドルを上抜ける可能性もないではない。それでも、当面の戻りには自ずと限りがあると考えられ、それは1.1500ドルの心理的な節目や、9月24日高値から11月12日安値までの下げに対する50%戻し=1.1515ドル処、さらに一目均衡表の月足「雲」下限が位置する1.1513ドルあたりまでのことではないかと思われる。
英国のEU離脱もイタリアの予算案も依然未解決のまま
去る11月14日、英国のメイ首相は閣議で欧州連合(EU)離脱協定案の承認を半ば強引に取り付けた。これに対して、直ちに与党や閣内からは反対の声が上がり、一頃は党首の不信任投票を探る動きも見られたほどだ。もちろん、このままでは来年1月に山場を迎えると見られる英国議会での承認など得られるべくもない。
さらに、11月15日にはラーブ前EU離脱担当相の辞任が伝えられ、ポンドドルが1.3000ドル処から1.2700ドル台前半の水準にまで一気に急落する場面もあった。正味のところ、メイ首相以外は誰も責任を負いたくないものと見え、独り孤軍奮闘するメイ首相には平気で「不信任」を突きつけたりしながらも、後任の首相候補に手を挙げようとする者は誰一人いない。聞いたところ、最近の世論調査では「EU残留」を希望する英国民の方が「EU離脱」を上回っているという。
ならば、国民投票をもう一度やり直せば良さそうなものだが、それは言うほど容易いものではないのであろう。しかし、再投票以外の選択肢として、現状では「合意なき離脱」以外に考えにくいのが実情と言わざるを得ない。まさに“泥沼”である。その意味でも、今後しばらくはポンドの下値メドを見出すことが難しいと言え、同時にそれはユーロドルの下値リスクにもつながる。加えて、ユーロの弱気材料という点ではイタリアの予算案を巡る問題というのもある。
11月13日、イタリア政府はEUが求めていた予算案修正の要請をあからさまに拒否。これを受けて、欧州委員会は同月21日に最終判断を公表することとなったわけだが、結局のところEUの欧州委員会は、イタリアを「過剰財政赤字是正手続き(EDP)」と称される制裁手続きの対象とすることが適正であるとの見解を示すことと相成った。
結果、場合によっては12月上旬にもEU財務相理事会へ「制裁手続き入り」を正式に勧告し、理事会は年明け1月にもEDP入りを正式決定する見通しと伝わる。実際に制裁が発動されるまでには一定の時間がかかる見通しであり、早くても2019年春以降ということになりそうだが、逆に言えば、それだけ市場は同問題を長く引きずるということでもある。繰り返すも、英国が「合意なき離脱」を余儀なくされる可能性も大いに残されているなか、ポンドとユーロの上値が重い状況は、今しばらく続くものと見ておく必要がありそうだ。
ポンドドルについては、まず1.2700ドル処で下値を守り切れるかどうかが当面の焦点ということになり、仮に下抜けてしまえば、そこから一気に1.2000ドル処を試しに行く可能性も封印はできない。もし、そんなことになればユーロドルが1.0500ドルの節目や2017年1月安値=1.0340ドルを試しに行く可能性も否定はできなくなり、まずまず「ドル1強」の展開が色濃くなって行くと想定される。
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