これからの外国為替場の行方 第105回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2019年1月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
ユーロドルの下値余地が今後少々拡がる可能性…
前回更新分の本欄で、筆者はユーロドルについて「相変わらず62か月移動平均線(62か月線)を上抜けることができず、かといって一目均衡表の月足『雲』下限を下回るわけでもない。よって、いまだ方向感が見出しにくい」などと述べた。
実際、9月の月足はやや長めの上ヒゲを伴う「小陽線」、というよりもほとんど「上十字」と称される足型に近い形状となったわけだが、それでも終値・月足は「雲」下限よりも上方に残った。今年5月以降、9月までのユーロドルは月中の安値が月足「雲」下限を下回る場面を毎月垣間見ていたものの、それでも終値ではしぶとく同水準を下回らずに持ち堪えていたのである。
ところが、執筆時のユーロドルは月足「雲」下限が位置する水準よりもかなり下方にあり、どうやら10月の終値はついに同水準を下抜けて終わりそうな状況となっている。
チャート①を見てもわかるとおり、ユーロドルの値動きは昨年(2017年)8月以降ずっと月足「雲」の下限・上限を強く意識し続けてきた。そんな非常に重要な節目からひとたび下放れる展開となれば、そこから一気に下値余地が拡がりやすくなってもおかしくはない。
まして、10月のユーロドルの月足・終値が1.1500ドルの節目や31か月移動平均線(31か月線)までをも下抜けることとなれば、なおさら当面の相場は弱気になびきやすくもなるというものである。
思えば、2014年5月高値から2017年1月安値までの下げに対する61.8%戻しの水準というのが今年2月高値=1.2555ドルであった。そして、昨年(2017年)1月安値から今年2月高値までの上げに対する61.8%押しというのが1.1200ドル処。まずは、同水準あたりが一つの下値の目安ということになると思われるが、前回も述べた通り、英国の欧州連合(EU)離脱交渉の行方次第ではもう一段の下値を探る可能性も生じ得ると見ておく必要はあろう。
ユーロを取り巻く状況は年末にかけて複雑化する?
足下でユーロドルが弱気になびきやすくなっているのは、やはりイタリアの財政問題と英国のEU離脱交渉の行方が、ともに不透明なままであることが大きく影響していると言える。
既知のとおり、EUの欧州委員会は10月23日にイタリア政府から提出された予算案を突き返し、3週間以内の再提出を求めた。これに対してイタリア政府からは「我々は降参しない」との声が上がり、なおも歳出拡大路線を続けるため、欧州委員会からの修正要求には応じないとの姿勢を露わにした。
再提出の期限は11月13日とされ、その後3週間以内に欧州委員会が見解を示す予定となっている(執筆時)が、場合によっては欧州委員会が制裁措置の発動に向けた手続きに入る可能性もあり、いよいよ余談の許されない状況となってきている。
互いに決裂を回避したいのはやまやまだが、仮に欧州委員会がイタリア政府に対して一定の妥協と譲歩の姿勢を示したところで、結果的には「域内の財政規律が損なわれる」という観点からユーロにとっては弱気材料となる。最も望ましいのは、イタリア政府がバラマキ型の政策方針を取り下げることだが、典型的なポピュリズム政党で成るイタリア政府にとって、それは決して現実的な選択肢ではないはずである。むしろ、イタリアが「EU離脱」の道を選ぶ可能性も払しょくはできず、そう簡単に事態は収束しそうにない。
一方、英国のEU離脱交渉については、10月17日のEU首脳会議で示された「クリスマスまで」という円滑な離脱実現のための期限までに、合意のための具体的方向性が示されるかどうかが当面の焦点となる。
逆説的ではあるが、一つの「期限」が示されたということは、その期限ギリギリまで、明確な方向性が示されることには期待できないということでもある。もちろん、最終的に「合意なき離脱」といった事態が回避される可能性は十分あると思われ、そうなれば一時的にもポンドを買い戻す動きが見られることとなろう。果たして、その時点でイタリアの財政問題はどうなっているのか。
年末にかけてユーロを取り巻く状況は実に複雑なものとなって行く可能性が高い。場合によっては、相当に強い売り圧力がかかる事態となる可能性も否定はできないため、そこは十分に警戒しておきたい。
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