これからの外国為替場の行方 第112回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2019年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
米中貿易協議は持久戦へ?ある程度の割り切りが必要
振り返れば、前回更新分の執筆は大型連休前のことであった。当時は、米国の「フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)をはじめ、ナスダック総合指数やS&P500種など複数の米株式指数が次々に史上最高値を更新する勢いであり、連れて日経平均株価も4月24日には一時的に2万2362円まで上昇、同日にはドル円も一時112.40円まで上値を伸ばす強気の展開であった。
ところが、大型連休の終わる間際に米国のトランプ大統領が突然の“卓袱台返し”を演じたことにより、それまでの流れがすべて逆転してしまった。これは、さすがに誰もが予期しない出来事であったと思われる。後に明らかにされたところによれば、5月初めに中国政府が一方的に米側に送付してきた米中貿易協議の合意文書案は、それまで両国が5か月間にも渡って積み上げてきた7分野150ページの分量を、こともあろうに105ページに修正、圧縮したものであったという。あのトランプ氏が怒り狂うのも道理と言えるが、いかなる西側の“常識”も決して中国には通用しない。
識者によれば「(米中の)2人の首脳が抱く世界秩序への不満は、まさに鏡に映った像のように反転している」「両国はどちらも修正論者であると同時に現状を維持したい大国」であり、ゆえに断じて譲れない者同士であるという。ここにきて伝えられているのは「中国の習近平指導部が米国との貿易戦争を巡り、国内に持久戦への構えを呼びかけている」という忌々しき現状である。こうした指導部の方針には中国の国内でも異論がくすぶっている模様であり、まだまだ先行きは不透明なままである。
いずれにしても、そのような状況であるからには、今後も交渉がある程度長引くことは覚悟しておかざるを得ないだろう。そのうえで、日々伝わってくる両国首脳の発言やメディアが発する見解などに、いちいち一喜一憂することはできる限り避けたい。
そもそも、米中間の交渉が「瀬戸際での駆け引き」であり、ゆえに目の前で丁々発止の舌戦が繰り広げられるのも道理であるということなど、誰もが百も承知であろう。それでも市場がやけに敏感に反応することはままあり、結果としてリスク回避の円買いが傾向として強まることもある。そこで必要なのは、やはり「ある程度の割り切り」ということになるのではないだろうか。駆け引きであるから、互いに押したり引いたりを繰り返し、その度に市場ではリスク回避ムードが強まったり、逆に後退したりする。ならば、むしろそれを利用して投資成果に結びつけるというのも一法ではないだろうか。寄せる波があれば、必ず引く波もある。
むろん、そのためには目の前で起こる一つ一つの出来事を冷静に分析し、次に相手がどう出るかを考える必要がある。例えば、先に米政府は中国の通信大手ファーウェイに対して制裁的な禁輸措置を講じるとした。言うまでもなく、これはあくまで駆け引きのカードの一つであり、それが相応の効力を発揮するものなら、両国間の水面下での交渉において一定の譲歩を引き出す力になり得る。そこは割り切って受け止めたうえで、相互の「譲歩」という名の“交渉の進展”が見られるかどうか、その可能性を考察しながら投資判断を行い、よりよいタイミングを計りたい。
よろしいですか?