外為オンライン・佐藤正和の実戦取引術|3大通貨の未来を予測するテクノ&ファンダ分析【今月のテーマ|米中貿易戦争激化!「最悪」を想定したシナリオとは?】
ベタ凪相場が続いてきたFX市場に、米中貿易戦争という「嵐」が襲い掛かりました。中国の全輸入品に25%の関税をかける、という超強気姿勢の米トランプ大統領に振り回される展開が続いています。為替レートにはまだリーマンショック級の大変動は起きていないものの、備えあれば憂いなし。今回は米中貿易戦争が「最悪の事態」に陥ったときの各通貨ペアの下値メドを探ります。
※この記事は、FX攻略.com2019年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
佐藤正和さんプロフィール
さとう・まさかず。邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。その後、年間取引高No.1を誇る外為オンライン・シニアアナリストに。通算20年以上、為替の世界に携わっている。ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」、ストックボイス「マーケットワイド・外国為替情報」に出演する他、Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
トランプ関税ショックでもドル円暴落せず。最悪の事態でも104円台は鉄板か!?
先月の連載で見たように膠着相場のときはドル円買い、豪ドル円買い、ユーロドル売りなど、高額なスワップポイントを狙った投資が有効です。しかし、為替相場が嵐に見舞われたときは、スワップポイントなど無視して、激しい値動きにしっかり便乗することが大きな利益につながります。
英語では「最悪の事態」のことを「パーフェクト・ストーム(完璧な嵐)」と呼びます。5月上旬、トランプ大統領のツイッターから始まった米中貿易戦争激化は、のちのち「トランプ関税ショック」と呼ばれるようなパーフェクト・ストームにつながる可能性大です。一部には「株価の動きを非常に気にするトランプ大統領は、そのうち矛先を収めるはず」という意見もあります。しかし、米国株式市場では4月にナスダックとS&P500が史上最高値を更新。多少の株価の下落には耐えられると読んだのかもしれません。
また、大統領選を睨んで早めに手を打ったとも言えます。なにしろ総額55兆円とも言われる中国からの全輸入品の関税を10%から25%へ引き上げれば、10兆円を越える税収が米国に入るわけですから。
とはいえ、「貿易戦争に勝者はいない。たとえ、傍観者であっても」というのが正論です。米国の独立系シンクタンク、オックスフォード・エコノミクスによると、米国が中国の全輸入品に25%の関税をかけ、中国が同様の報復措置をとると、米国のGDPは2020年までに0.5%縮小し、実質的な経済成長は1%近くまで下がると試算されています。同時に中国の成長率も1.3%ほど減速し、前例のない5%成長まで低下するとの予想です。貿易戦争が実際の戦争、軍事的緊張までエスカレートすると、リーマンショック級の経済危機、金融不安が為替市場に襲い掛かることは明らかです。
そこで今回は、あくまで「米中の貿易交渉が完全に決裂したら?」という“仮定”のもとで、各通貨ペアの下値メドについて考えてみることにしましょう。
チャート①は2016年9月のトランプ大統領選出直前からのドル円の週足チャートです。「もし最悪の事態になったら?」と言ったものの、トランプ関税ショックに見舞われた5月中旬現在も、ドル円は1ドル108円~114円をコアレンジにした膠着相場で推移しています。
ここ3年間の最高値はトランプ大統領選出直後の2016年12月につけた1ドル118円台。最安値は2017年4月や2019年の年初につけた1ドル104円台。チャート①のAの下ヒゲの長い大陰線が年初急落時の値動きになります。米中貿易戦争が果たして最悪の事態に突入したかどうかのテクニカル上、最大の判断材料は「米ドルがここ3年間の膠着相場の下限である1ドル104円を割り込むか、割り込まないか」と言えそうです。
通常、リスクオフが進むと、対ドルに対しても急速な円高が進むものですが、最近のドル円相場の下値が固いのは、やはり日米の圧倒的な金利差が原因です。米中貿易戦争の次に来るのは、日本の巨額な対米貿易黒字に対するトランプ大統領の攻撃だと考えると、大統領が望むドル安円高がもう少し進んでもいいようにも思えます。しかし、ドル円はショックに見舞われた5月中旬現在も1ドル109円台で踏みとどまっています。
チャート①の下段に示したMACDが3年間、0ライン近辺にべったりと張り付き、ここ1年は52週移動平均線が真っ平に近い横ばいで推移。ドル円はたとえ嵐に見舞われても「鉄板」といえる底固さを見せています。
よろしいですか?