ブラックホールか進化論か[森晃]
森晃さんプロフィール
エコノミスト。シンクタンク(アメリカ合衆国)に所属。専門分野は、為替政策、金融政策、マクロ経済政策、金融規制。市場関係者、金融当局者、政策当局者と交流し、多方面から為替の動向について分析を行っている。
※この記事は、FX攻略.com2019年11月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
小学校時代は、おじいちゃんに買ってもらった天体望遠鏡で星を眺めることが好きであった。田舎で星を見たときに、こんなに星があるのかと驚いたのを覚えている。中学・高校生のころから、興味の中心は宇宙から数学や生物に変わった。高校時代はラグビー部に所属したのだが、受験勉強にも本気で取り組んだ。
そのような思春期に何度も読んだ本がある。スティーヴン・ジェイ・グールド著の『パンダの親指』である。お気に入りは、同氏の論文「ミッキーマウスに生物学的敬意を払って」である。最初のミッキーマウスは、わんぱくないたずらっ子として描かれていた。しかし、国民的なシンボルとして成長すると、ミッキーマウスはお茶目でかわいらしいキャラクターに進化し、それに伴い顔立ちと体型が幼児化した(ネオテニー:幼形成熟)。
人間は何をかわいらしいと感じるのか。そして、幼児に対して大人が抱く愛らしい感情にはどのような進化論的な意味があるのか。これについてのグールド氏の分析にはとても興奮した。
MMTとは
MMT(Modern Monetary Theory)とは、日本語に訳すと「現代金融理論」である。自国通貨を持つ国は、通貨を際限なく発行することができる。そのため、債務の返済が滞ってデフォルトに陥ることはあり得ないとする経済理論である。
この経済理論は、ステファニー・ケルトン教授、ビル・ミッチェル教授、ランダル・レイ教授、ウォーレン・モズラー氏によるものである。MMTの提唱者の一人であるケルトン教授(ニューヨーク州立大学)は、2016年の大統領選挙で民主党候補者の一人であるバーニー・サンダース上院議員のアドバイザーを務めた。
この理論の主な主張は、①自国通貨を持つ政府は、財政的予算制約に直面しない②政府はいつでもインフレーションを起こすことができる③政府の赤字は、その他の部門の黒字である-である。
もう少しだけ掘り下げて、具体的にこの理論を説明したい。例えば、米国経済が成長と雇用の増加が続いている限り、米国はインフレーションを引き起こすことなく自国通貨である「ドル」で借金をすることができるため、米国政府の債務残高がいくら増加しても基本的には問題ないと主張できるであろう。
一方で、欧州諸国は各国が単一通貨のユーロを採用したため、欧州債務問題が起きたと主張できる。例えば、ギリシャ中央銀行は欧州中央銀行(ECB)の傘下にあるので無制限の流動性供給ができず、デフォルト・リスクがあると主張することができるであろう。
この理論では、政府が支出の削減をせずに財政の拡張へ突き進むのを抑制できないため、財政予算のブラックホールについて心配しない経済学のように思えるが、どうだろうか。
よろしいですか?