これからの外国為替場の行方【連載100回記念】田嶋智太郎氏スペシャルインタビュー/想像力をはたらかせて外国為替場を自由に歩こう(後編)
経済アナリスト、田嶋智太郎さんの人気連載「これからの外国為替場の行方」が、8月号でめでたく連載100回を迎えました。引き続き特別企画として、田嶋智太郎さんへのインタビューをお届けします。聞き手は三井智映子さん。相場の本質に迫る、大盛り上がりとなったインタビューの後編です。
※この記事は、FX攻略.com2018年9月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
三井智映子さんプロフィール
みついちえこ。フィスコ マーケットレポーター。北海道小樽市出身。NHK教育「イタリア語会話」でデビューし、2011年東京モーターショーにてMCデビュー。現在はテレビ、CM、舞台などで活動。2013年11月大阪新歌舞伎座、2014年1月「五木ひろし特別公演」で八重次役として出演。また2013年テレビ朝日「白虎隊」「濃姫2」、2014年テレビ大阪「たかじんNOマネーBLACK」に出演。2012年10月からフィスコリサーチレポーターとしてYahoo!ファイナンスで株価予想などを行う他、テレビ、雑誌、Webなど活動の場を広げている。
2013年講談社より『最強アナリスト軍団に学ぶ ゼロからはじめる株式投資入門』、2015年明日香出版社より『はじめての株価チャート1年生 上がる・下がるが面白いほどわかる本』を出版。「美人過ぎる金融アナリスト」として話題に。女性らしい銘柄選びと、分かりやすい初心者向けの説明やセミナーを得意とする。
リーマンショックでMIT出身者が集結
田嶋 ちなみに、リーマンショックで最初に動いたのは誰だかご存じですか?
三井 いいえ、知りません。
田嶋 リーマンショックがあって最初に動いたのはイングランド銀行(BOE)のキング総裁なんです。ポンドを5倍にするといってばらまきました。だから英国はリーマンショックの痛手をそれほど受けていません。そして、2012年にはロンドンオリンピックがあって、一つは直接的効果と、もう一つはとてつもないレガシーが今も受け継がれているので、ブレグジットの問題さえなければ英国は一番回復度が早かったはずです。次に米国が動いたのはご承知の通りで、QE1が始まり、QE2、QE3と続き、4兆5千億ドルものお金がばらまかれました。
三井 英米の金融緩和は早かったんですね。
田嶋 英国が一番早く動いたのは、経済規模が小さかったからです。次に米国が動いたのは重要性が高かったからです。その次に動いたのは実は日本で、2013年4月に日銀が異次元緩和を発動しました。その後、2015年に動いたのは欧州中央銀行(ECB)のいわゆる量的緩和ですね。このように、リーマンショック後は、一つ一つ動いていったわけですが、ある共通点で全部つながってくるんです。BOEのキング元総裁も、FRBのバーナンキ元議長も、ECBのドラギ総裁も、金融緩和をやろうといった人たちは全員マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部出身なんですよ。
三井 今のパウエルFRB議長はどうなんですか?
田嶋 それが面白いところです。金融緩和という一仕事を終え、次に総裁もしくは議長に座っている人たちは、面白いようにみんなMITと全く関係ない人たちです。例えば、BOEの現総裁はカナダ人ですからね。どんどんお金を刷ってばらまきすぎてしまった後始末をしてもらうためには、英国人ではない方が良いだろうという考えが働いたのだと私は思います。
三井 それは幕引きのために?
田嶋 そうですね。例えば、老舗の大企業で経営が傾きかけたときに外国人社長を連れてきて、それで責任を取らせるみたいなことがあるじゃないですか。それと同じで、パウエルさんも出身母体が全然違いますし、ECBも次はドイツ連銀の総裁がなるといわれていますが、MITとは縁もゆかりもない人です。
リーマンショックから立ち直り、全世界が景気後退局面から抜け出そうと共に努力してきた時間帯の中で、動いたメカニズムをベースにして考えたとき、次にそれはドル高の方向に向かわせるものなのか、ユーロ高に向かわせるものなのかをまずは考えなければなりません。
三井 金融市場って数字が多くて無機質なイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、ドラマというかシナリオがあるんですね。今はリーマンショックから10年たちましたけど、回復に向けてのテイクオフをした人たちがようやく仕事を終えて、それを引き継ぐのはまた違った流れの方々なんですね。
田嶋 また違う新しい時代の対応をするべく、基本的な考え方を持っている人たちが次に就任してきていると理解すれば良いと思います。もっといえば、危機的状況の中でMIT出身者が一つに固まって何とか危機を救ったという、非常時的な体制がもう必要なくなりました。その後任についた方々に関しては色付けのしようがなく、「それぞれが持っている力を発揮して頑張ってくれればそれで良い」という適当な人選なんですよ。
三井 対処はもう終わったから、「今の良い状態を維持してください」というイメージでしょうかね。
田嶋 はい。後はECBの問題ですね。ユーロドルは1.25ドルが戻りの限界だということを前からいっているんですけど、ユーロはずっと対ドルで売られ続けていますよね。
三井 下落トレンドということは読者の皆さんも意識していたと思います。
田嶋 2017年に1年間でやけに上がったというのは全く意外で、逆にいうと1.25ドルまで戻るとは思っていませんでした。そろそろ戻り売りだといい続けてきて、投資家に引かれちゃいましたよ。お前は戻り売りしかいえないのか、と(笑)。1.20より上にいくとは…。
三井 このシナリオ的には違ったということですね。
田嶋 そうなんですけどね。横軸の流れと縦軸の流れの関係でもう少し戻りが続いていれば1.20くらいまでが限界だったと思うんです。トランプやフランスの選挙等の影響であまりにも短期間でユーロが戻ったので、このような結果になったのではないでしょうか。1.25は本当に最後の壁であり、そこから今は1.19(インタビュー時点)まで下がってきています。これにはベースがあって、2008年7月につけた1.6018がおかしかったんだと思います。ユーロという国がないのに、ユーロという通貨を使うのはおかしいですよね。
何がいいたいかというと、主権を持たない通貨というのは通貨としての価値は本来ないはずなのに、主権を立派に持っているドルとか円に対して強くなってしまったことが勘違いなんです。当時、ユーロに主権を持たせようという動きがあったかどうかが問題で、ユーロはいつまでたっても一つにならない、つまり主権を持つのは無理だとマーケットは判断したわけです。今度ドイツ連銀の総裁がもしECB総裁になったら、ますます厳しくなり、もうユーロという通貨は無くなる方向にいくと考えなければなりません。そうなれば戻り売りは当たり前ですよね。どこで戻り売りをするかというときに、1.20という心理的節目なのか、それとも長期レジスタンスラインが下りてくるところまで上がるのを待つのかという話です。常にベースとなるストーリーがあって、その中でたまたま戻っているときには戻り売り、対円でドルが売られているときは底値拾い、要するに押し目買いを仕掛けるのが理想的です。
三井 ストーリーに戻ってくることを前提として取引すべきということですね。
よろしいですか?