これからの外国為替場の行方 第116回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2019年12月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
米中貿易戦争は「一時休戦」でエスカレートには断固反対!
9月の国際金融市場は、前月の8月とは打って変わって、一気にリスク選好ムードが盛り返すこととなった。8月下旬に一時104円台半ばあたりまで値を下げたドル円も、9月には大きく値を戻し、一旦は108円台半ばの水準を試している。
9月は米・日の株価も好調に推移し、NYダウ平均は今年7月につけた史上最高値=2万7398ドルに迫る動きが見られた。一方の日経平均株価については9月4日から11日続伸し、今年4月につけた年初来高値に顔合わせするといった強気の展開を見せつけた。 日経ジャスダック平均に至っては、9月初旬から執筆時点までに14日連続の上昇を記録する展開となっており、新興市場における連日の資金流入の勢いは目を見張るほどだ。
転換点になったのは、8月下旬から9月初旬の時期であり、そこで重要なキーワードとなったのは「エスカレート」というワードであったと筆者は考えている。個人的に、やけに印象が深い。
去る8月29日、中国商務省の報道官は「中国は貿易戦争のエスカレートに断固反対する。冷静な態度で協議と協力により問題を解決したい」「中国には米国に報復する手段は十分あるが、今話し合うべき問題は新たな関税を撤回し、エスカレートを防ぐことだと考えている」などと述べた。
これに対して米国のトランプ大統領が「本日(29日)から異なるレベルでの協議が再開する」と発言し、それ以降の市場には「米中が貿易問題で歩み寄る」との期待が拡がることとなった。
実は、この3日前にあたる8月26日にも、中国の劉鶴副首相が重慶市内で、米国との貿易戦争について「エスカレートさせることに断固反対する。中国にも米国にも全世界にも不利だ」と講演していた。米中首脳による舌戦が徐々に過激さを増していた8月、そのことを嫌気していた市場には少なくとも「中国側は真面だ」という安心感を与えた。
思えば、このエスカレートという言葉は、どちらかと言うとあまり思わしくない事態が見る見るうちに進行し、いずれ制御が利かなくなる様を指しており、これに「断固反対する」ということは、いまだ状況は制御可能であることを示すと考えられる。
このワードが中国側から持ち出されたことは、ある意味で「トランプさん、少し冷静におなりなさいな。こちらは、もともと冷静に対応しておりますが」といったニュアンスが含まれており、トランプ氏にしてみれば「一本取られた」といったところか。
よく指摘されることであるが「1年後に大事な選挙を控える身」と「そうでない絶対的な立場」では、やはり後者に一定のアドバンテージがあろう。ただ、ハイテク覇権の壮大な争奪戦という観点からすると、今現在は米国の方に多少の分があることも事実であり、ここは互いに「一時休戦」に持ち込んだ方が其々のためということになりそうである。
互いに貿易戦争の鍔迫り合いを繰り広げるなか、もはや“関税率の引き上げ合戦”にまで事が及んでしまうと、そこからは互いに消耗し尽くして、ともに自滅してしまいかねない。よって、いまだハイテク覇権争いの行方は全く見通せないながらも、とりあえず貿易戦争の方は「一時休戦」の形をとっておいた方がいいだろう、というのが米中其々の本音のところであると思われる。
トランプ氏にとっても、戦況激化で米景気減速の末、支持率低下では元も子もない。一方、国際金融市場にとっては、少なくとも現状より悪化しない、エスカレートしないことが何より重要である。
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