【無料全文公開】現役為替ディーラーが何でも答えます!みんなのQ&A[トレイダーズ証券みんなのFX 井口喜雄](FX攻略.com2017年8月号)
疑問をぶつける相手はいないし、調べてもよく分からない…。そんな悩みがあったら、この企画にお任せください。トレイダーズ証券の井口さんが、あなたの質問を解決します!
井口喜雄さんプロフィール
いぐち・よしお。トレイダーズ証券市場部ディーリング課。認定テクニカルアナリスト。1998年より金融機関に従事し、主に貴金属や石油製品のコモディティ市場を中心としたカバーディーリング業務に携わる。2009年からみんなのFXに在籍し、「米ドル/円」や欧州主要通貨を主戦場にディーリング業務を行う。ファンダメンタルズから見た為替分析に精通している他、テクニカルを利用した短期予測にも定評がある。最近では、みんなのFXの無料オンラインセミナーにも登場し分かりやすい講義内容が好評を得ている。さらにTwitterでは、プロディーラーが相場についてリアルな意見を発信しているので要チェック。
Twitter:https://twitter.com/yoshi_igu
※この記事は、FX攻略.com2017年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
Q9. ヘッジファンドとは何者で、どんなときに、何を狙って活動するのでしょうか。またそれに対する個人投資家の戦略があれば教えてください(愛知県/30代/男性)
A. 分散投資を用いて利益を追求するファンドのことです
投資信託や投資ファンドと大差なし
ヘッジファンドという言葉を聞くと、多くの読者の皆さまは「相場を動かす謎めいた存在」という魑魅魍魎のような存在をイメージするかもしれません。しかし、実態はあくまで分散投資を用いた絶対リターンを追及するファンドであり、世に多く存在する伝統的な投資信託や投資ファンドなどと大きな違いはありません。
また、マーケットレポートを読んでみると「ファンド勢による仕掛け的な値動き」といった記事もよく見かけます。このような記事もヘッジファンドを恐ろしい集団だと思わせている要因の一つとなっているかもしれません。
もちろんマーケットを動かす要因となっているときもありますが、その多くの場合は相場の材料に関連付かない値動きに対して使われているようです。つまり説明責任がある相場関係者が不可思議な変動を説明するとき「ヘッジファンドが買ったんじゃないか」と答えれば適当な理由になるため、便宜的に使われていることが多いように思います。
ヘッジファンドという言葉が独り歩きして、トレーダーの中で過大評価されているのかもしれませんので、実際の運用成績を見てみましょう。
苦戦するヘッジファンド
ヘッジファンドが強みを発揮するのは、相場の大きな急変が起こった年で、現在のようなレンジ相場ではヘッジファンド運用はうまくいかないケースが多いといわれています。実際、ヘッジファンドの運用パフォーマンスの平均値は、市場のベータ(市場全体の運用パフォーマンス)をほとんどの年で下回っており、苦戦を強いられていることは間違いありません。
例えば運用成績が何十パーセントとクローズアップされた次の年に、運用がうまくいかず解散というケースも少なくありません。ロシアの財政危機をきっかけにスーパーヘッジファンドのLTCMが破産したことは、記憶に新しい読者も多いのではないでしょうか。
このように、ヘッジファンドだからといって、必ずしも勝てるわけではありません。生き馬の目を抜く為替のマーケットでは皆が平等に戦っており、ヘッジファンドだけ特別だということはないのです。
個人投資家VSヘッジファンド
個人投資家の多くは逆張りポジションを選好するため、ヘッジファンドのポジションとはしばしば反対のポジションとなり、「個人投資家VS投機筋」という構図ができてしまうことがあります。
このような局面で資金が潤沢な投機筋は、損切りが集中していると思われるテクニカルポイントに対して巨額な資金で売買をしかけ、大量のストップロスを狙ってくることがあります。為替取引はゼロサムである以上、ファンド勢のポジションと個人投資家のポジションに大きな乖離があるときは、仕掛け的な値動きを警戒する必要があります。
とはいえ、この個人投資家VSヘッジファンドの構図も分かってさえいれば怖くはありません。個人投資家のポジションも、投機筋のポジションも全てではありませんが、大体のポジションを知ることができます。
状況を把握してさえいれば回避することは可能であり、必要以上に恐れることはないはずです。
AIを駆使するヘッジファンド
伝統的手法が苦戦する一方で最近のヘッジファンドは、アルゴリズムやAIを駆使する超高速取引のような、非伝統的な運用を行う方向にシフトしてきた印象があります。特にAIではIBMやグーグルなどの大手IT企業からヘッジファンドに移籍する技術者も多く、リーマンショック以降の金融市場でのAIの存在感は日々拡大し続けています。
一部ヘッジファンドの公開資料をのぞくと、驚異的な勝率を誇るHFTがあったり、科学者のみで運用を行っているクオンツ系のファンドが驚異的なパフォーマンスを出したりするなど、その運用手法に日々相場関係者は好奇と注目を寄せています。
個人投資家がAIに対抗するには
為替取引におけるAIとは、大量のデータを高速で分析してミリ秒(1000分1秒)単位で一定のロジックに合わせて自動的に売買するシステムなので、もちろんスピード勝負では勝ち目がありません。しかし、こちらも対抗策がないわけではありません。
超高速取引のAIがそのままポジションを保有することはまずありません。ほとんどの場合大きく動いてから瞬時に決済するため、チャートには長い下ヒゲが現れます。したがって、反発局面でのカウンタートレードはAIの動きを利用した新しい取引として有効となります。AIによるクラッシュを利用して現在値から200pips、300pipsといった普段ではまず約定しないような深い位置に指値を入れることも検討できそうです。
また、AIはマーケットの状況を見て短期的な利ザヤを狙う取引が主です。そのためAIが作り出す相場は瞬間的なもので、マーケットの大きなトレンドに影響を与えることはありません。トレンドはファンダメンタルズと密接に結びついており、遅かれ早かれ最終的に進むべき方向に導かれていきます。
常にファンダメンタルズに気を配り、自分の考え方を整理しておくことができれば、急変時にも落ち着いて対応することができるようになります。ファンダメンタルズを基に、先のシナリオを見極めるという為替の基本に戻ることも、対策の一つかもしれません。
よろしいですか?