これからの外国為替場の行方 第126回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2020年10月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
コロナ禍で加速する!?悲願の欧州統合への歩み
奇しくも、新型コロナウイルスの感染拡大が様々な形でかねて必要とされてきた社会の劇的な変容をグローバルに後押しする格好となってきている。それは、このところ話題として取り挙げられることの多いDX(デジタルトランスフォーメーション)の大きな流れといったものが代表するところとなるが、他方で長年の悲願とされてきた欧州統合について、その実現に向けた貴重な一歩がようやく踏み出されるきっかけにもなったことは非常に興味深い。
既知のとおり、欧州連合(EU)は去る7月21日、コロナ禍からの経済再生を図るため、総額7500億ユーロ規模の復興基金を創設することで合意した。当初、EU首脳らの協議は一部加盟国の抵抗によって難航し、望ましい結論は得られない可能性もあると伝えられていたが、結局は5日間にも及ぶ「マラソン交渉」を経てなんとか最終合意に漕ぎつけた。
このことは、欧州統合に必要な要件の一つである財政統合への足取りに弾みをつける結果となる可能性があり、とりあえずは欧州安定の重要な後ろ盾となり得るポジティブな材料であるとして、合意の事実が伝わった後の市場は素直にユーロ買いで反応することとなった。
もともと、復興基金案が早期合意に至るとの市場の期待は非常に(やけに?)強いものがあった。そのため、6月下旬に1.1200ドル処に位置していたユーロドルは復興基金の創設が合意に至るまでの短い期間に1.1500ドル処まで上昇し、さらに7月末には一時1.1900ドル台に乗せるという驚異的な値上がりを見せることとなった(チャート①参照)。
結果、足下では今まさに上向きの62週移動平均線(62週線)を31週移動平均線(31週線)が上抜けるゴールデン・クロスが示現しようとしている。その意味からすれば、さらに一段の上値余地を探る可能性もないではない。
ただ、このたびの急上昇でユーロドルは2018年2月高値から今年3月安値までの下げに対する61.8%戻しを達成しており、一つに重要な節目に到達したことに伴って上げ一服となる可能性もある。
また、このままユーロドルが1.2000ドル台に乗せるような展開となった場合には、さすがにユーロ高の弊害が気に掛かる事態ともなろう。場合により、欧州中央銀行(ECB)が何らかのアクションを起こす可能性もあると見られる。
ちなみに、7月末にかけてユーロドルが一時1.1909ドルまで駆け上がったところで、2008年7月高値や2014年5月高値、2018年2月高値などを結ぶ長期レジスタンスラインに到達したという事実は、一応頭の片隅に置いておきたい。
少なくともこれまでは、このレジスタンスが非常に強力に機能してきたということを付記しておくことが必要であろう。
よろしいですか?