人工知能と相場とコンピューターと|第12回 ユーロの誕生[奥村尚]
奥村尚さんプロフィール
おくむら・ひさし。1987年工学部修士課程修了。テーマはAI(人工知能)。日興証券で数々の数理モデルを開発。スタンフォード大学教授ウィリアム・シャープ博士(1990年ノーベル経済学賞受賞)と投資モデル共同開発、東証株価のネット配信(世界初)。さらにイスラエルのモサド科学顧問とベンチャー企業を設立、AI技術を商用化し大手空港に導入するなど、金融とITの交点で実績多数。現在はアナリストレーティングをAI評価するモデル「MRA」、近将来のFXレートをAI推計する「FXeye」、リスクとリターンを表示するチャート分析「トワイライトゾーン」を提供。日本の金融リテラシーを高めるため、金融リテラシー塾を主催している。
趣味はオーディオと運動。エアロビック競技を15年前から始め、NACマスター部門シングル9連覇、2016年シニア2位、2014~2016年日本選手権千葉県代表、2017~2018年日本選手権 マスター3準優勝。スポーツ万能と発言するも実は「かなずち」であり、球技も苦手である。座右の銘は「どんな意思決定でも遅すぎることはない」。
ブログ:https://okumura-toushi.com/
※この記事は、FX攻略.com2021年3月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
1999年1月に欧州で通貨統合
1999年1月、欧州で通貨統合が行われました。ユーロの誕生です。それまで、フランスはフラン、ドイツはマルク、イタリアはリラ、という自国の通貨を使っていました。これは、一国家として金融政策の独立性を持つことができる本来の姿です。近隣各国と経済格差、インフレ差、景気サイクルに差異が出ても、独自の金融政策を使うことで吸収できるメリットがあるからです。
一方、共通通貨を導入することで得られるメリットもあります。為替の取引コストがなくなります。20世紀までは欧州旅行に行くと、国境を通過するたびに通貨が変わり、支払いに苦労しました。特にスキーに行くと、コース次第で国境を越えるので通貨が変わるのは不便でした。
さらに、価格の透明性も高まります。当然に生産性も上がり、その生産力も競争力の高い地域に集まるので全体としては経済にプラスです。こうした共通通貨の問題とメリットに関しては徹底的に議論され、結果として導入に踏み切った経緯があります。
一般に、経済が強い国が自国通貨を手放すことは考えられません。欧州においては英国とドイツが該当します。英国は最後までポンドを手放しませんでした。ドイツがマルクを手放したのには、ワケがあります。通貨統合をすることで、通貨が弱いイタリアやスペインの勝手な通貨切り下げを回避でき、二つの世界大戦に負けたおかげで植民地というものがなくなり、労働市場の改革が必要であった(例えば、ドイツワインは質の割に高いですが、それは人件費が圧倒的に高いからです。これは二つの世界大戦を勝利したフランスと全く対照的です)からです。また、車に代表される輸出依存が高いドイツには為替変動(特にマルク高)を回避したい、という理由もあったはずです。
ユーロとドルの関係性
ユーロ誕生から今日までのユーロの価値の推移を見ておきましょう(チャート①)。ユーロの価値を客観的に示す指数として、ユーロインデックスというものが存在しています。ドルインデックスほど有名ではないのですが、ドル、ポンド、円、スイスフランなどをミックスしたものです。
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