外為オンライン・佐藤正和の実戦取引術|3大通貨の未来を予測するテクノ&ファンダ分析【今月のテーマ|トルコショック襲来!超長期スパンで見たドル、円、ユーロ、南アランド 】
最近、危機らしい危機がなく、こう着状態だった為替相場に「トルコショック」が襲来しました。トランプ大統領の言動に振り回されがちな為替相場ですが、こういうときは近視眼的に右往左往せず、長期的な大局観に立った投資を心掛けたいもの。そこで、値動きの激しい年末相場を前に、ドル、円、ユーロ、そして渦中の新興国通貨・南アフリカランドの長期的な値動きを検証しましょう。
※この記事は、FX攻略.com2018年11月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
佐藤正和さんプロフィール
さとう・まさかず。邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。その後、年間取引高No.1を誇る外為オンライン・シニアアナリストに。通算20年以上、為替の世界に携わっている。ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」、ストックボイス「マーケットワイド・外国為替情報」に出演する他、Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
トルコ危機の長期化や米国向け自動車への関税導入なら1ドル100円割れも!
為替市場ではいまや「カラスの鳴かない日はあっても、トランプ大統領の名前の出ない日はない」という状況です。中国や欧州との貿易戦争に続いて、7月後半、トランプ大統領は拘束された米国牧師の解放を求め、トルコに大型制裁を発動すると圧力をかけました。6月に再選されたエルドアン大統領の強権的な政治姿勢や年率15%を超えるインフレ悪化で、トルコリラはすでに史上最安値を何度も更新していました。
まさにトランプ氏の発言は火に油を注ぐ格好になり、対円では今年初めに1リラ30円台だったものが半値の15円台まで急落。その余波は、多額の経常赤字を抱えるアルゼンチン、ロシア、ブラジル、インドネシアなど新興国通貨全体に飛び火し、「トルコショック」が現実のものとなっています。
8月上旬には欧州中央銀行(ECB)が欧州銀行のトルコ向け債権に懸念を表明したと報じられたことで、ユーロや英ポンドなど欧州通貨も急落の波に飲み込まれ、世界同時株安が進行しました。米国とトルコの緊張関係が続いていることもあり、トルコショックは9月以降もくすぶり続けそうです。
トランプ大統領は、対イランでも強硬姿勢を鮮明にしており、一連の強気外交は11月の米国議会の中間選挙までは変わらないと予想されます。つまり、11月まではトランプ大統領が焚きつける形で通貨や株価の乱高下が続く可能性が高いでしょう。
貿易問題ではやや蚊帳の外のイメージの日本ですが、トランプ大統領はかつて、日本はこれまで貿易で甘い汁を吸ってきたが、もう騙されない、といった趣旨の発言をしています。現在、日本から米国へは約170万台の車が輸出され、メキシコやカナダからも現地で生産した車を米国に輸出しています。トランプ政権がこれに手をつけないことはないと思われ、何らかの圧力をかけて来ると予想されます。トランプ大統領が日本の自動車輸出に牙をむけば、1ドル100円近辺まで急速な円高が進んでもおかしくありません。にもかかわらずドル円は110円から113円のレンジで、「奇妙な均衡状態」「不気味な静けさ」の中にあります。
FX相場で目先の判断に迷ったときは、高みに立って大局観を養うのが一番です。そこで今回は、長期スパンで見た各通貨ペアの値動きを検証しましょう。
チャート①は2012年12月に自民党の第2次安倍政権が誕生し、アベノミクスが始まって以降のドル円の月足チャートです。アベノミクス、そして黒田総裁率いる日銀の量的金融緩和政策が円安のメガトレンドを生んでから、すでに6年近い歳月が流れました。2015年6月高値の125円86銭まで一直線に上昇したドル円はその後、巨大な三角保ち合いを形成しています。
チャート①で最重要なのは、2015年6月高値とトランプ相場が頂点に達した2016年12月高値118円台を結んだレジスタンスラインAです。現在のドル円はAに加え、すでにブレイクされて今後、抵抗帯に変化しそうな旧サポートラインBに上値を押さえつけられる形になっています。
アベノミクス始動前の2012年9月安値77円台と2015年6月高値125円台を結んでフィボナッチリトレースメントを行うと、トランプ相場が失速した2017年1月以降は、おおむね107円台の38.2%ラインと114円台の23.6%ラインに挟まれた非常に狭い範囲で値動きしていることも分かります。
全体を見て一番印象深いのは、アベノミクス初期の2014年1月に1ドル100円の大台を回復して以降、紆余曲折はあったものの、一度も長期間、100円割れが続いていないことでしょう。トレンドとは「高値を切り上げる動きがあれば上昇トレンド、安値を切り下げる動きがあれば下降トレンド」と判断するのが基本です。現状の値動きから見て、1ドル125円の高値更新より、100円割れの安値更新のほうが起こりやすいように見えます。
Is it OK?