これからの外国為替場の行方 第110回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2019年6月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
米国で生じた「逆イールド」の衝撃と真相は?
本稿の執筆時(3月下旬)、国際金融市場の上空に、俄かに不穏な空気が漂う場面があった。直接的なきっかけは、3月22日のNY時間帯において米10年債利回りが一時2.416%まで低下し、あろうことか3か月物の米財務省短期証券(TB)の利回りを下回る「逆イールド」が発生したことにある。これは、あのサブプライム・ショックの渦中であった2007年以来のことであるだけに、市場では「ついに米国景気は後退局面入りか」などという声も聞かれ、一時は上へ下への大騒ぎとなる場面もあった。
結果、同日のNYダウ平均は前日終値比で460ドルもの下落を見ることとなり、週明け25日の東京市場では日経平均株価が一時700円以上も値を下げる場面があった(終値ベースの下げ幅は今年最大)。
率直な感想は「やや過剰反応」といったところであり、どうにも「逆イールド」という言葉だけが独り歩きしているような感じもした。そして案の定、事態は比較的早期にとりあえず終息に向かうこととなった。その実、3月25日のNYダウ平均は前週末終値比でプラスとなり、翌26日の日経平均株価は前日終値比で451円の上昇となったのである。
ここで、少し整理しておくことが重要であろう。まず、米・日の株価に過剰反応が一旦見られた背景には、どうやら「逆イールド」というワードに極めて敏感に反応したアルゴリズム取引の存在があったと見られる。そこで反射的な米国債券の買いや米国株式の売りオーダーが自動的に執行されたものと考えられる。
なかでも、とくに米国の大手銀行株を中心とする金融株が利益確定売りの標的とされた。振り返れば、米国の金融株は昨年末の下げ過ぎの反動で、年初から相当程度の戻りを試す渦中にあったわけで、そこに「逆イールド」というキーワードが突然放り込まれたのだからたまらない。
そもそも、この時点における逆イールドだが、それは高止まりしていた3か月物金利が位置していたところに、一時的にも10年物の金利がグンと低下してきたことにより生じたものである。お分かりのように、米国の経済活動は足下で活発な状態にあり、それゆえに強い資金需要は短期金利を押し上げやすい。
肝心な米10年債利回りの急低下については、他でもなく米連邦準備制度理事会(FRB)による政策運営のミス・リードが一因であると考えられる。既知のとおり、3月下旬に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明やパウエル議長の会見内容は、市場に想定以上の“ハト派”という印象を与えた。その背後にあったのが市場の一部で囁かれる「ドナルド・ファースト」という目下の米政権の基本姿勢であるとするならば、期せずしてFRBがミスを犯してしまうのも致し方ないのかもしれない。
もちろん、かのFRBの政策運営が米大統領の意のままとなってしまうこと自体、それは非常に忌々しきことと言える。3月22日付の日本経済新聞に「トランプ氏に軍配」といった表記があったが、本当に“その次元”で語られてしまう状況がそこにあるのなら、米国の政策運営は地に堕ちたと言わざるを得まい。むろん、そこが市場に漂う不安の根源であったりもするのだろう。
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