外為オンライン・佐藤正和の実戦取引術|3大通貨の未来を予測するテクノ&ファンダ分析【今月のテーマ|景気後退が懸念される今こそ注目!2019年ファンダメンタルズ】
佐藤正和さんプロフィール
さとう・まさかず。邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。その後、年間取引高No.1を誇る外為オンライン・シニアアナリストに。通算20年以上、為替の世界に携わっている。ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」、ストックボイス「マーケットワイド・外国為替情報」に出演する他、Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
米中貿易戦争は、絶好調だった米国経済にも悪影響をもたらしつつあります。景気が曲がり角にある以上、2019年はこれまで以上に経済のファンダメンタルズに注目が集まりそう。そこで今回は、米国の主要な経済指標を紹介し、今、どの指標がホットなのかを解説します。キーワードは「いい数字より悪い数字」。景気悪化を示すネガティブサプライズに注意が必要です。
※この記事は、FX攻略.com2019年6月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
ドル円に強い影響を与えている米国長期金利の今後の行方と対処法について
米中貿易戦争の影響もあり、景気後退の懸念が広がっています。2019年後半は、経済指標や各国中央銀行総裁の発言に注目が集まる「ファンダメンタルズの年」といえるでしょう。
為替レートを動かす直接の要因は投資家の売買行動です。彼らが新たに買いや売りで参入したり、利益確定したり損切りしたりすることによって値動きが生まれます。買い手と売り手のどちらが優勢かという投資家の需給関係は、過去の値動きを見て、それをもとに未来を展望するテクニカル分析で推理するしかありません。しかし、投資家が行動を起こす理由の多くはファンダメンタルズの変化によるものです。2019年の為替相場に大きな影響を与えている経済要因が何かを知っておいて損はありません。
たとえば、リーマンショック以前の好景気時代は中央銀行の利上げにつながるインフレ指標の消費者物価指数や小売売上高が投資家の関心の的でした。リーマンショック以降は景気回復の進み具合がわかる雇用統計が“花形”の経済指標になりました。時代や経済情勢によって、投資家の行動に直結する主要な経済的要因は変遷するのです。
そして、足元のドル円が最も大きな影響を受けているファンダメンタルズといえば、やはり米国長期金利といえるでしょう。図①は2007年からのドル円と米国長期金利の代表的指標である10年物国債の金利の推移です。長期金利はいつの時代も為替レートに多大な影響を与え続けていることもあり、その連動性は明らかです。2014年8月~2015年4月頃に一時、逆相関になった時期もありましたが、これは2014年10月の日銀の追加緩和により、米国以上に日本の長期金利が低下したことによるものです。米国長期金利は、足元では2.6%を挟んでもみ合っていますが、市場のコンセンサスである「年内利上げなし」との見方が金利上昇を抑えています。
投資家の中には「大きな外的ショックがない限り、米国がリセッションに陥るとは思わない。米国の労働市場は強く、それが賃金を押し上げ始めている。また、堅調な消費が企業の価格決定力を支える」という見方が根強いのも事実です。もし、米国長期金利が再び3%台を回復するようなら、ドル円は115円台を目指す可能性があります。米国では財政赤字が拡大しており、需給面からも金利上昇圧力が強まっていることは確かです。ただ、米国の長期金利があまりに急激に上昇すると、金利高が企業収益や景気を冷やすリスクが警戒され、米国を中心に株価が急落し、つられて急速な円高ドル安が進行するリスクも忘れてはいけません。2018年1月には米国長期金利が3%台乗せ、10月には3.2%台乗せしたことを嫌って株価が暴落。ともに最高値圏の1ドル114円台にあったドル円も下落に転じました。
2019年に入ってからは2月発表の12月小売売上高が前月比1.2%減と9年ぶりの減少幅になったり、3月発表の2月雇用統計の新規雇用者数がたった2万人増と1年5か月ぶりの小幅な伸びにとどまるなど、米国経済の“弱さ”を示す指標が目立つようになってきました。米中貿易戦争の不透明な行方もあり、米国長期金利は2.6%台前後まで低下しており、それがドル円のさらなる上昇を阻む要因になっています。
今後も米国長期金利の低下傾向を勘案すると、ドル円はどちらかと言えば下落の可能性が高いと見ています。ただ、金利の低下は米国だけではなく、日本は言うに及ばずドイツやフランス、英国やカナダなど主要国でも見られ、これは世界的な景気減速が背景かと思われます。米国長期金利は下げたとはいえ、いまだ2.6%台。相対的に言えば高金利通貨の地位を占めています。ドル円のボラティリティが低く、そんなに大きな値動きが予想できないとすれば、ドルを保有することにメリットがあり、「円キャリー」がドル円の下落を支えているとも考えられます。
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