ポンドと人民元安は変わらず ドル円相場は何があっても動かず[太田二郎]
太田二郎さんプロフィール
おおた・じろう。FXストラテジスト。1979年にザ・ファースト・ナショナル・バンク・オブ・ボストン東京支店にてFX取引を始める。後にマニュファクチャラーズ・ハノーバー・トラスト銀行、BHF銀行、ナショナル・ウエストミンスター銀行、ING銀行で法人向けの為替取引に従事、その後、リテールFXに従事し、米国のGFT東京支店で営業、後にマーケット・ストラテジストを経験、現在は個人投資家として活躍。
※この記事は、FX攻略.com2019年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
米中貿易摩擦の拡大で人民元安を抜け出せず
米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席の米中首脳は自国内の権威を維持するため、後ろ指を指されるような弱気姿勢を見せることができません。結果として、米中貿易摩擦が短期間で収束することは期待できそうにありません。
昨年から始まった米国による対中制裁関税の動きを振り返ってみると、第1弾は昨年7月で340億ドルに25%、第2弾は昨年8月で160億ドルに25%、第3弾は昨年9月で2000億ドルに10%を課税し、昨年12月には25%への引き上げ時期を半年間延長。米中間で貿易問題の協議を継続したのですが妥協策を見いだすことはできず、今年5月10日に従来の10%→25%に引き上げた制裁関税を発動しました。
そして、5月13日にはついに中国からの輸入品全てに匹敵することになる制裁関税の第4弾(3000億ドルに最大で25%)の詳細を公表しました。6月下旬まで産業界の意見を聴取し、発動は6月末以降になると思われます。
米中のAI(人工知能)技術を巡る覇権争いは熾烈を極め、昨年に米国は自国製品をイランと北朝鮮に不当輸出したとして、中国の通信機器企業であるZTEに対し取引禁止措置を発動。昨年7月13日に取引禁止が解除されるまでZTEは実質的に事業ができない状態となり、深刻な経営不振に陥っていました。
また、今年5月15日にトランプ大統領は、ファーウェイなどの通信機器を米国内で販売することを制限する大統領令に署名、16日に米産業安全保障局が輸出を規制するエンティティリストにファーウェイとその関連企業を追加したことで、米中の貿易摩擦の今後を予測することがより難しい状況となっています。
ただ、米国内の企業への悪影響を懸念する声は強く、既存のネットワークやスマホの保守などに限って8月19日まで猶予したことを考えれば、本音は制裁関税の第4弾を双方共に避けたいと思っていることは間違いないと推測できます。米中首脳は共に、妥協したと受け取られてしまうことを恐れ、引くに引けない状態となっています。
今回はタイミング良く6月28日~29日に大阪で開催されるG20サミットに米中首脳が参加することになっており、先日トランプ大統領は「習近平国家主席と会い、実り多い会談になるだろう」と述べていました。この場で制裁関税の発動時期を12月まで延期する可能性が大きいのではないでしょうか。
当然ながら為替相場も延期の有無によって変動することになりそうですが、全てを元に戻してなかったことにすることはできません。制裁関税の発動をただ先送りする結果になれば、人民元は一時的な買い戻しの可能性があるものの、その水準を切り上げるのは難しいと思われます。
よろしいですか?