これからの外国為替場の行方 第113回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2019年9月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
市場の米利下げ観測は少々行き過ぎという印象
去る6月4日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「貿易交渉の米経済への影響を注視し、成長持続のために適切な行動をとる」と講演で述べた。これをきっかけに、市場では俄かに「米利下げ」の観測や期待が盛り上がり、米国の代表的な株価指数は、この日を境に次々と目先底入れから一気に切り返して、5月初旬以降の下げ分を取り戻すような展開となった。執筆時の米株市場は、あたかも「適温相場」が再来したかのようである。
件のパウエル発言以降、一気に市場に広まった米利下げ観測だが、正味のところ、これは少々行き過ぎであると個人的には考えている。そして、その行き過ぎた状態は6月(18-19日)の米連邦公開市場委員会(FOMC)を通過したその後も、さほど大きくは変わっていない。
既知のとおり、6月のFOMCの結果は、ほぼ事前の市場予想どおりで、注目されていた「辛抱強くいられる」の文言が声明文から削除されるなど、基本的にはハト派的なトーンが滲む内容となった。とはいえ、パウエル議長は会見で「必要とあれば手段を用いる用意がある」とする一方で「利下げは指標次第」「FOMCは様子を見たがっている」とも発言しており、少なくとも利下げに前のめりという感じではない。
また、注目された参加メンバーらによる金利見通し(ドット・プロット)では、総員17人のうち7名が「年内に0.5%ポイント分の利下げもあり得る」と見込んだ一方、政策金利の「年内据え置き」を見込んでいるメンバーも8名と、その見解は大きく二つに分かれた。
市場では、一部に「年内に2~3回の利下げがあり得る」と見込む向きもある。ところが、FOMC参加メンバー内で最多(8名)の意見は「年内の利下げは0(ゼロ)回」である。これは、いくら何でも互いの温度差が大き過ぎると言え、いずれは何らかの修正がなされる可能性が高い。
そもそも、足下で米株価が全体として史上最高値水準にあるというのに、一方で「7月のFOMCでは、直ちに利下げを断行すべし」というのは、やはり少々無理があるのではないだろうか。パウエル議長は「予防は治療に勝る」といった趣旨の発言をしているようだが、「景気」と「病気」では意味合いがかなり異なる。
それでも、FRBが「あくまで予防的に」という“但し書き付き”で利下げに踏み切る可能性は十分にあり、そうなると米景気は一気にバブル化してしまうリスクが高まる。「病気」の予防をすることに何ら弊害はないが、「景気」は必要以上に予防的な措置を講じると、後に「バブル」という別の問題を生じさせることにつながってしまう恐れがある。もっとも、2期目の再選を狙うトランプ米大統領にとっては、選挙前のバブル到来も願ったり適ったりということになるのかもしれない。
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