これからの外国為替場の行方 第102回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2018年10月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
あらためてトランプ公約の「トリレンマ」を考える
前回更新分の本欄で、筆者は米政権が対中制裁関税を発動する予定としていた7月6日について「その日が言わば一つの“期限”となる」と述べた。同時に「相場と向き合う立場からすれば、どこかでアクシデンタルな状況に陥る可能性があることは理解しつつも、基本的には何らかの形で市場の警戒が一旦緩むタイミングが訪れると見ておくことが重要」などとも述べ、いずれにしても7月6日前後を境にドル円、クロス円は一旦上値を試しに行くと読んでいた。そして案の定、ドル円は7月9日あたりから一旦上値を試す展開となり、大掴みで110円台半ばあたりの水準から113円台前半の水準まで一気に上昇することとなった。
正直、筆者は前記のとおり「アクシデンタルな展開になる可能性もある」としながら、基本的には7月6日より前の時点で米中間が互いに折り合いをつけるだろうと考えていた。しかし、実際にはそうした読みが外れ、ついに米中貿易は“戦争状態”に突入してしまったわけである。
それにも拘らず、制裁関税が発動されてからは少々意外なほどに市場でアク抜け感が拡がり、一旦は円安・ドル高と米・日の株高が目の当たりにされることとなった。次いでトランプ米政権は7月10日、中国に対して追加関税を掛ける2000億ドル相当のリストを公表するに至ったが、実際に発動するとしても、それは9月になるということから、市場における目先の手掛かり材料としてはひとまず棚上げされる格好となった模様である。
さらに、7月20日放送の米CNBCテレビの番組に出演したトランプ米大統領は、「中国に対する制裁課税の対象を5000億ドルに拡大する可能性を示唆した」とされるが、もはやここまでくると、すべてがあまりに子どもじみており、馬鹿々々しくて、まともに反応・対応することも少々憚られる。
英フィナンシャル・タイムズ紙のマーティン・ウルフ氏は「危険な無学者」が「2歳児のように既存の仕組みを壊している」と述べた。また、同紙のジャナン・ガネシュ氏は「未来が変えられないと考えるのは誤り」「(米大統領の最近の訪欧で)彼が一過性の現象である可能性も示された」などと述べている。
いたずらに楽観はできないものの、過度に悲観する必要もないのではないか。振り返れば、トランプ氏が米大統領就任時に掲げた数々の「公約」の中身を眺めつつ、そこで「トリレンマ」というワードを頭の中に浮かべたことを思い出す向きも少なくないことであろう。言うまでもないことだが「3.5%~4%の経済成長」と「低金利」「ドル安」が同時に満たされるわけはない。そこが最も重要なポイントではないのか。
前出のマーティン・ウルフ氏は「ほぼ完全雇用の状態の国で貿易赤字を縮小するには景気後退が効果的なことは、経済学者なら誰でも知っている」とも述べている。なるほど、米景気が後退局面に突入すれば、少なくとも「無学な2歳児」の不満の一つは解消されることとなる。とはいえ、仮にそうなった場合に日本や中国などが被る経済的なダメージは米国の比ではないと考えられ、どのみちドルは対円や対人民元でその強みを維持することとなるだろう。
もちろん、逆に米国経済が持続的な4%成長を実現した場合には、自ずと米金利が上昇し、当然のことながらドルは強含みで推移する。ちなみに、ドルが安くなるほど米国内の物価は上昇しやすくなり、結果的に市場はドル買いに傾きやすくもなる。
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