これからの外国為替場の行方 第114回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2019年10月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
米国景気の足下の強さと利下げ断行の整合性は?
前回更新分の本欄で「(6月下旬時点における)市場の米利下げ観測は少々行き過ぎ」と述べた。そして案の定、少々行き過ぎた米利下げ観測は、後に修正されることとなったのである。
なにより、7月に入ってから発表された各種の米経済指標は概ね強めの結果となり、少なくとも足下の米国景気はすこぶる好調であることが明らかにされたことは見逃せない。
まず、市場にとってサプライズだったのは6月の米雇用統計であった。既知のとおり、同月の非農業部門雇用者数(NFP)は22.4万人の大幅な伸びとなったことが明らかにされ、同結果を受けた市場は直ちにドル買いで反応した。失業率こそ3.7%にアップした(前月は3.6%)ものの、それは労働参加率が上昇した結果でもある。
6月と言えば、同月下旬に控えていたG20大阪サミットにおいて米中首脳会談が行われるか否かが一つの焦点となっていた時期であり、両国の貿易摩擦の影響が大いに危惧されていた。結果的に、米中間の交渉は再開・継続されることとなり、とりあえず追加関税の発動も見送られることとなったわけだが、その点は6月の米雇用統計の結果に反映されていない。
また、後に発表された6月の米小売売上高も前月比0.4%増と事前予想の0.1%増を大きく上回る結果となった。加えて、自動車やガソリン、建材、食品サービスを除いた6月のコア指数が前月比0.7%増と大幅に上昇したうえ、5月の数字が当初発表された0.4%増から0.6%増へ上方修正されている。
さらに、相前後して発表された6月の米消費者物価指数や卸売物価指数も事前の市場予想を上回る強めの結果となり、極めつけは7月18日に発表されたフィラデルフィア連銀製造業景況指数が21.8と、予想の5.0や前回の0.3を大幅に上回ったことであった。
もちろん、かねて米連邦準備制度理事会(FRB)は「予防的に利下げを行う必要」を訴えているわけであり、その意味においては足下の景気が多少強めであったとしても当初の方針が変わるわけではないとしたいのであろう。それにしても、政策方針とその判断材料となるデータとの整合性を考えると、やや無理筋ではないかと思われなくもない。
7月10日に議会証言に臨んだパウエルFRB議長は、事実上「7月米利下げ」を宣言してしまうような格好となったが、その根拠の一つとして「インフレ圧力は抑制されたまま」という点を挙げていた。これについては、あらためて現代における「デジタル・エコノミー化の進展」という要素がもっと考慮されて然るべきではないかと思われてならない。
なお、7月16日にサンフランシスコ(SF)連銀のデイリー総裁は「7月末が利下げのタイミングとして適しているのかいまだに確信が持てない」「米国経済の成長を止めるほどの逆風が吹くことになるのか判断するにはまだ早い」などといった見解を示しており、これも十分に説得力を持つと思われる。SF連銀は今年の投票権を持たないが、デイリー総裁はSF連銀の調査部門で長年下積みを経験してきた生え抜きであり、持てる分析力とその発言は軽視できない。
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