外為オンライン・佐藤正和の実戦取引術|3大通貨の未来を予測するテクノ&ファンダ分析【今月のテーマ|いいニュースは悪いニュース?2019年秋相場の行方 】
トランプ大統領の対中追加関税発動や米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ転換が金融市場を激震させています。そこで、秋口から年末にかけて、どんなトレンドが生まれそうかを主要通貨ペアごとに検証。FRBや欧州中央銀行(ECB)に比べ、わが国・日銀には新たな政策発動余地がありません。そう考えると、急激な円高トレンドが濃厚にも見えますが…。
※この記事は、FX攻略.com2019年10月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
佐藤正和さんプロフィール
さとう・まさかず。邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。その後、年間取引高No.1を誇る外為オンライン・シニアアナリストに。通算20年以上、為替の世界に携わっている。ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」、ストックボイス「マーケットワイド・外国為替情報」に出演する他、Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
トランプ対中関税の追加発動やFRBの利下げ観測で円高含みの展開が続きそう
「さらなる利下げか、それとも様子見か」。FRBの金融政策が、ここ最近の為替相場を動かす大きな要因になっています。本来、政策金利と景気の関係は「景気が悪くなったから、景気を刺激するために利下げする」というものです。しかし、FRBが打ち出すスタンスは「景気が悪くなりそうだから、それを防ぐために利下げする」というもの。8月発表の米国雇用統計では、7月非農業部門新規雇用者数が予想を少し下回る16.2万人増を記録しましたが、経済指標の「いい数字」はFRBが利下げ路線に転換しない原因になると見なされ、株価は下落しました。逆に「米国経済が少し悪いことを示す経済指標」が出れば、FRBの利下げ期待が生まれて株高へ。「いいニュースは悪いニュース、悪いニュースはいいニュース」という状況の中、S&P500など米国の株価指数は軒並み、史上最高値を更新しました。
さらに、8月1日には貿易交渉停滞に苛立ったトランプ大統領が9月から対中追加関税第4弾を発動するとツイート。金融市場は激震に見舞われ、リスクオフの急速な円高や株価の暴落に見舞われました。いまだ米国経済は好調を持続し、米国株も史上最高値圏にありますが、今後は予断を許さない状況に陥っています。
為替市場では、秋に生まれたトレンドが年末年始まで持続することが多いもの。そこで今回は、120日、200日移動平均線、一目均衡表の雲、MACDを使い、金利低下期待が渦巻く主要通貨ペアの2019年末までの相場展開を探ってみることにしましょう。
チャート①はドル円の2018年9月以降の日足チャートです。今年に入ってからのドル円の高値は4月後半につけた112円台。安値として目につくのは2019年年初の一時的急落でつけた104円台、G20前に米中貿易戦争の緊迫度が頂点に達した6月や追加関税が発表された8月安値106円台です。
チャートを見ると、110円台で右肩下がりに転じた120日、200日移動平均線(3月時点でデッドクロス)、108円~109円台に垂れ込める一目均衡表の雲が上値を阻む壁になりそうです。FRBの利下げ転換が鮮明になれば、「鉄板下値といえた1ドル107円~108円台を割り込むか否か?」が年末相場の大きな焦点になりそうです。
一方、MACDは0ライン近辺まで上昇しましたが、失速してデッドクロスしそうになっています。利下げや米中貿易戦争の悪化が続いている状況から見て、トランプ大統領就任以来続くドル円レンジ相場の最安値ラインである104円台を試す可能性が非常に濃厚です。
FRBの利下げ期待が残る為替市場では、「利下げ→円高」「利下げなし→円安」という方程式が続きそうです。しかし、米国経済の底堅さが意識されるようになれば、利下げ打ち止めでも「ドル高円安、株高」に転じる可能性もあります。逆に、8月から9月のように米中貿易戦争が緊迫化すれば「円高・株安」の負の連鎖が進むでしょう。
経済指標の「ほどよい悪さ」が利下げ期待=ドル安円高トレンドを生む奇妙な展開です。年内いっぱいは、雇用統計、消費者・生産者物価指数、ISM製造業・非製造業景気指数など、米国の経済指標から目が離せません。
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