価値を創造し続ける企業とその根拠を見つける松下裕紀氏のバリューで紐解く企業とマーケット
最近、とみにお客様が増えているサロン(メルマガ)があるなぁと気になっていたのですが、あらためて、サロンの案内ページや記事内容を拝見してみて、「なるほど!この内容であれば読みたくなる。」を思わず膝を打ちました。
そのサロンの主催者とは、価値を増大し続けられる企業を見出すための方法論を研究し発信し続けている株式会社Aurea Lotusの松下裕紀氏です。
松下裕紀さんは、
1987年にシティコープ・スクリムジャーヴィッカーズ(現シティコープグループ)証券に日本株&円CB(転換社債)セールスとして入社
BNP(現BNPパリバ)証券と西ドイツ(WestLB)証券にて、欧州及び米国債券ストラテジストとして機関投資家を担当
1997年に帰国、第一生命投信投資顧問(現DIAMアセットマネジメント)で外国株のファンドマネージャー&アナリスト
2001年に朝日(現あずさ)監査法人の非会計士チームに入り、運用会社の体制やアナリスト基準に則ったパフォーマンス基準の遵守状況調査、及び個別ファンドのデューデリ
2002年に香港へ渡り、徹底したバリュー投資でアジアのウォ―レン・バフェットと称されるCIOが率いるValue Partnersで、日本株を含むアジア株のファンドマネージャー&アナリスト ・・・・・
さらに詳しい経歴はこちら バリューで紐解く企業とマーケット
と経歴を見るだけで凄いということが分かりますが、ウォーレン・バフェットがマンガーと共にバークシャハザウェイで実践するバリュー投資。
松下さんの記事を見れば、価値を増大し続ける企業を探す分析手法であるバリュー投資を、松下さんは実践されていて、氏のセミナーやサロンで投資家は企業の見方の技術といったものが手に入る。と思いました。
月に3回程の記事が送られるサロンですが、今回の1月6日の記事では、価値を創造し続ける企業とその根拠として挙げられたのが、空調の特許を全世界に公開し市場そのものを拡大する戦略を採ったエアコン大手のダイキン。競合への知財に関する訴訟を効果的に使いモーターの市場で圧倒的ポジションを築く日本電産でした。
これら2社は、松下さんが述べるアーキテクチャ(戦略の構造とでも言えば良いでしょうか。)の構築で企業価値を増大させることに成功して、今後将来にわたって株価も伸び続けるバリュー投資銘柄ということが書かれていました。
今号を完全公開させていただきますので、ぜひ、あなたの投資にバリュー投資の知恵を組み入れることを検討してみてはいかがでしょうか。
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2020年1月No.1『バリュー創造とイノベーションについて』
本年もどうぞ宜しくお願い致します。
ということで、年明け第1回目のメルマガですが、
2020年のスタートでもありますので、今回は少しイノベーションと言う切り口でバリュー投資を語りたいと思います。
まず、そもそもイノベーションとは何ぞやという所からです。
イメージとしては全く新しい先端技術でブレークスルーを起こすことのように思っている人も多いかも知れませんが、実は違います。
Wikipediaには、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」とありますが、経営学者で有名なPFドラッカーが説明した定義は、『富を創造する能力を既存の資源に与える』、です。
つまり、イノベーションは、ゼロベースで何かをつくることでは無いということです。
新結合を構成する個々の要素、アセットが新しい訳では無く、新しくなければならないのは、結合すなわち組み合わせです。知と知の掛け合わせによって、富を創造する能力、バリューを元々のアセットに生み出すことです。
この概念は、経営における企業価値創造でも同じで、例えば、12月の第2回目で取り上げたダイキンであれば、資本力が弱かったゆえに、大手家電メーカー、パナソニックや三菱のような系列販売店網を持たない、だから直接販売にならざるを得なかったのだけれど、逆に当時成長し始めていた販売力の強い大手家電量販店チェーンへ積極的に販路を開拓していったことで、一気にシェアを奪ってきてトップに立った訳です。
中国市場の拡大戦略でも、格力電器と提携することで、敢えてコア技術であるインバータを格力に一部供与、いわゆるオープン戦略ですが、当時中国の家庭用エアコン市場が圧倒的にノンインバータであった為、市場自体を変化させる必要があるとの判断をした、だからそのために中国及び世界の家庭用空調トップである格力電器と提携した訳です。
実際この提携によって、中国市場のインバータ化は一気に進み、提携時の2008年の7%から、現在は70%以上、10倍に急拡大していて、その中でダイキンの、特に品質の高い高付加価値高価格のエアコンがデファクトスタンダードを確立した事で、売上が大きく伸びてきたのです。
今年の7月には、ハイドロフルオロカーボン(HFC)32(R32)=単体冷媒を使った空調機の製造や販売に於いて、特許権の不行使を宣言しました。元々この冷媒32の特許に関しては2015年に全世界に無償開放していましたが、ダイキンとの個別契約は必要だったんですね。これを書面契約を不要とし、従来の冷媒に比べて温暖化影響が低いR32の世界的な普及を促進しようとしています。
対象の特許は約270件に上りますが、同冷媒は従来の冷媒「R410A」と比べて温暖化係数が約3分の1です。この環境対応が世界で求められている流れの中で、同社が開発した冷媒を国際標準化することで、自らの企業価値最大化に繋げようとしている訳ですね。
ということで、まずはイノベーションの定義を抑えました。
今回もう一つ抑えて欲しい概念についても話します。
韓国への貿易取引厳格化で高純度のフッ素酸の話が出ていましたが、日本が他国に比べて圧倒的に強いのは機能性素材や精密部品です。
基本的に上流に遡るほど強さは増し,日本メーカーだけでほぼ独占状態といった材料や部品も少なくないんですね。特に半導体などの微細化が進む中で需要が旺盛なのにもかかわらず,こうした寡占状態が続いている、強い理由として良く言われるのが、「アーキテクチャ論」です。
製品を構成する部品や工程に、その製品機能をどのように配分し、部品・工程間 のインターフェースをどのように設計するかといった設計構想のことです。アーキテクチャは、インテグラル型とモジュラー型とに分類されます。
要求される機能と生産工程を結びつけることを「工程アーキテクチャ」と言いますが,特に機能性材料や高精度が求められる精密部品などは、汎用材料と違って,各生産工程を調整しながら統合管理する、これが「擦り合わせ型」、つまりインテグラル型で,日本メーカーが培ってきた組織能力と非常に相性が良いんですね。
インテグラル型製品は、機能と部品との関係が錯綜している製品で、すべての部品が相互に絡み合って、トータルシステムとして力を発揮するタイプの製品です。この製品の特徴は、機能と部品 が1対1の関係ではなく、多対多の関係にあり、各部品を設計する際には、他の部品の設計と緊密な連携を取る必要がある、ですから擦リ合わせの妙が製品の完成度を大きく左右します。
インテグラル型製品の生産では、設計の各工程群の「つなぎ方」=プロセス・フローやレイアウト、マテリアルフローで考えていかなければならないんですね。用途ごとの機能を実現するためには、各工程の設備を基本的に自社で内製して全体最適の視点で一貫して製造する必要があります。
一方のモジュラー型、こちらは組み合わせ型ですが、その製品の特徴は、 機能と部品との関係が1対1の関係に近く、各部品が自己完結的機能を有し、1つ1つの部品の独立性が高く、インターフェースがシンプルです。部品間の擦リ合わせを省略し、組み合わせの妙で製品展開が可能となります。
既存の設備を買ってきて寄せ集めればできてしまうような材料は「組み合わせ型」で、化学プラントなどの製造設備さえ導入すればそれなりの材料が得られる所謂コモディティケミカルと呼ばれる汎用品などがそうですし、自動車生産なども、一定の規格に基づいて、構成要素(車のドアとか空調とか)、これをモジュールと言いますが、モジュール毎にまとまった部品郡の形(サブ・アセンブリ)にして、これを組み込めば完成するし、モジュールごとに交換も可能になっているような生産方法はモジュラー型ですね(ただし、車の技術開発自体はモジュラー型ではありません)。装置産業などはこちらの組み合わせ型、モジュラー型になる訳です。
基本的に日本メーカーが擦り合わせ型の材料で国際競争力が高いのは,戦後,ヒト・モノ・カネが不足する中で培ってきたチームワークやきめ細かい管理手法が有効に働くということがあります。勿論それだけでトップに立てる訳ではなく、超高純度と言われる機能性化学品などは11Nとか12Nのような(99.9999999999%)という常軌を逸したレベルですから、極めて難易度の高いプラントを運営していくことは並大抵ではない、当然高い技術力・開発力が無ければ達成できませんが、日本的な組織体系・運営がインテグラル型に於いて優位性を持ちやすいベースにある、ということです。
例えば液晶パネルや半導体そのものについては、日本メーカーの地位が少しずつ低下して韓国や台湾メーカーが台頭した、けれど材料、特に上流の素材になるほど日本メーカーのシェアは高くなりますね。例えば,液晶の構成部材である偏光フィルムについては、第1回目でロールトゥパネル特許の説明をした日東電工が42%,さらに偏光フィルムを構成するPVAフィルムは,クラレが世界シェア85%と圧倒的で,日本合成化学との日本メーカー2社で市場をほぼ独占しています。
市場寡占は,価格交渉に於いても部材メーカーの立場を非常に強くしています。機器市場が拡大するとともにそれに使う部材の需要も急増している訳で,右肩上がりの市場であれば、ドンドン新規参入組が名乗りを上げても良さそうなものですが、多種多様な部材で,それぞれのニッチ分野に於いて少数のメーカーによる寡占化が進んでおり、この傾向は高度化が進んで益々強まってきています。
何故その地位を維持し、ポジションが強くなっているのか、これにはまさに参入障壁の高さがあり、まず第一に製造技術に長年培ってきたノウハウがあって他社は簡単にはまねできないことと、そしてこれが大きいですが、各部材の市場規模自体はそれほど大きくない、つまりニッチになるので、スケールメリットも効かないこと、さらには、機器メーカーにいったんある部材が採用されると,その代替品を使うには各工程で認定が必要になってしまうことなど、種種の要因があります
一般に、製品のアーキテクチャと組織構造のアーキテクチャとは同型化する傾向があります。
そのため、インテグラル型製品では、主要部品を内製する垂直統合型組織が有効であり、モジュラー型製品では、主要部品を外部調達に委ねる水平分業型組織が有効であると言われています。1つの完成品を作る為に、多くの部品メーカーが関わって国際的な分業を行っています。
そのため、モジュラー型製品に適合した組織を有する企業は、技術革新を通じてインテグラル化へのシフトが起きた際に、深刻な困難に直面することが多いんですね。この状況をモジュラリティの罠といいます。
製品のインテグラル度が上昇しても水平分業型組織であり続ける結果、製品を構成する部品・工程間の調整が困難となり、技術革新に適切に対応できなくなってしまう現象のことをモジュラリティの罠というのです。
これを戦略的に恣意的に活用して闘いに勝ってきた企業に日本電産があります。
創業46年、事業用モータのメーカーで、特に精密小型モータでグローバルニッチトップ製品を多数持っています。
ダイキンと同じく売上高の8割が海外ですね。
戦略的にこのアーキテクチャを使ってきた事例としてコアであったHDDモータの沿革を見てみます。
例えば1990年~97年の時期、HDD にMRヘッドが採用され、それに伴ってHDD 用モータにも導電特性が付加されたため、製品自体の内部構造のインテグラル度も、製品が利用される先の製品の内部構造のインテグラル度も上昇しています。
これに対して、日本電産はメイド・イン・マーケットでの製品供給体制を確立し、HDDドライブメーカーのアジアシフトに追随していきました。具体的には、91 年・93 年・95 年にそれぞれタイに工場を新設した だけでなく、96 年にはフィリピンへも進出しています。
競合他社がアジアの製造拠点を一箇所としていたのとは対照的な対応です。これによりドライブメーカーに対する情報収集能力が高まり、緊密な製品の摺り合わせが可能となって、インテグラル 度の上昇に適切に対応できた訳です。
次に、98年以降2000年頃までは、製品が利用される先の製品の内部構造のインテグラル度が低下した、この時期、MRヘッドが市場に定着したことにより、モジュラー化が進展して製品差別化が困難な状況となり、価格競争が激化しています。これに伴って、HDD 用モータの業界平均単価も 8ドル台から 5ドル台へ下落し、TDK・三星電機などの競合他社が市場から退出していきました。日本電産は、M&AでSeagateのモータ部門を買収して水平統合化を進め、これにより生産規模・市場シェアが拡大し、価格対応力が強化されています。
差別化が困難になり価格競争が激化する段階では、規模の経済が効きます。ですから水平統合化としてのM&Aが合理的な意思決定と言えるわけです。
さらに言うと、実はこのM&Aは単に規模を追求しただけでなく、その次の段階の新技術、動圧軸受モータの生産技術力、Seagateが保有していたサーバー用動圧軸受モータの量産技術を獲得するという目的もあり、同じ時期に動圧軸受モータの部品加工技術を保有するシンポ工業・トーソクの2社も買収しています。水平統合と垂直統合を両面で補足していたということです。
今言った次の時期に突入した2001年~04年、新技術と言った通り、製品自体のインテグラル度が上がります。モータ各社はモータの軸受を従来のボールベアリングから動圧軸受に変更したんですね。これを予期して、事前にシンポ・トーソクの2社を買収し、垂直統合化を進め、さらに光洋精工とボールベアリングの合弁会社を設立し、ボールベアリングの内製も進めていました。ベアリングモータと動圧軸受モータの両睨みの体制を取っていたということです。
当時、日本電産の最大の競合相手であったミネベアがボールベアリングメーカーとしての強みを生かしたボールベアリング一体型モータを投入し、競争優位性を築き始めると、日本電産はライバルの強みを無力化する動圧軸受モータへのシフトを積極的に図っていきました。ここでSeagateの量産技術が効いたわけです。
結果、市場では次第にボールベアリングモータから動圧軸受モータに切り替わって行き、ミネベアもボールベアリングを使用しない動圧軸受モータへの切り替えに追従せざるをえなくなりました。
ミネベアが業界第2位のシェアを維持しつつも、部門収益は厳しい状況が続いたままだったのは、電産が動圧軸受モータの開発・生産に必要となる主要技術を垂直統合化による内製化をしていなかったミネベアに対し、意図的にモジュラリティの罠に陥れたからでもあった訳です。
ミネベアの動圧軸受専用工場の準備 が事後的な対応になったのは、ボールベアリングメーカーとしてボールベアリングタイプのモータを少しでも存続させたいと考えていたからです。意図的に日本電産が技術革新をしかけ、競争相手をモジュラリティの罠に陥れた訳です。
2005年以降、07年頃までは、動圧軸受モータが市場に定着したことで製品のインテグラル度は低下します。日本電産は、この時期にライバルのミネベアに対して、低価格戦略に加えて知財戦略をしかけることで、市場からの締め出しを図っています。
まず、新製品である動圧軸受モータについて、断続的に一定サイクルで低価格戦略を実施 し、市場シェアを徐々に奪っていきました。次に、競合企業の1つであった三協精機に資本参加し、水平統合化を進めました。これにより三協からの特許侵害による訴訟リスクを回避しつつ、その知財を活用してライバルであるミネベア・日本ビクターに対して、特許侵害訴訟をしかけていきます。
このパテント戦略は、徐々に効果を発揮し、ライバル企業の開発部門を疲弊させていきます。ニッチトップと言った通り、競合企業の本体から考えると市場としては小さい、売上規模の少ないモータ部門が提訴されることによる企業イメージの低下は、モータ部門の社内での立場悪化へと繋がり、積極的な施策が取れないことで、最終的に市場シェア低下に繋がっていったんですね。策略家の本領発揮という所です。
HDDシェア85%というのは、こうして達成されてきた訳です。
2008年に入るとHDDの記録方式が垂直磁気記録方式へ移行したことに伴って、モータに求められる品質レベルもより一層厳しくなってきます。ドライブメーカーはモータメーカーに対して、それまで以上に発塵・発ガス管理を徹底させるような動きを取り、モータメーカーではベースプレート一体型モータへのシフトが進むこととなります。つまりインテグラル度の上昇です。ここでも日本電産は、この動きに合わせてベースプレート会社であるブリリアントを買収して垂直統合化を進め、モータのベース一体化への対応力を高めていきます。
このように、日本電産と言う企業は、インテグラル度が強い精密部品の戦略に於いても、技術革新や市場のステージに応じた製品アーキテクチャを把握し、最も有効なスタンスで戦略的に使うことで自らの競争優位性を引き上げていったわけです。
ここで先ほどのイノベーションの議論に立ち戻ってみましょう。
ダイキンの事例は、ビジネスモデルで言う所のエコシステムです。
エコシステムという言葉自体は直訳すると生態系という意味で、経営戦略上で使う場合は、複数の企業の提供価値が合成され、一体として外部に対して競争力を発揮する企業集団の事です。
M&Aのように完全に資本関係を持ったり、業務提携をしたりする場合や、直接的な取引関係がある形もそう呼ぶ事がありますが、よりルーズなアライアンスや価値創造ネットワークの中で、そのネットワーク内に居るレイヤーの価値が相互に好循環を生むようなモデル、という事です。
バリューチェーンにある他社の強み、各企業の力をレバレッジとして活用する、ダイキンについていえば、家電量販店の成長拡大力を取り込む事で自らの強みとして言った訳ですね。
顧客はそれぞれのレイヤ―の価値だけでなく、エコシステムに於ける組み合わせでの価値を評価して購買行動を行う、全体の合成された提供価値が、単体よりも高い競争優位性を持ちます。
エコシステムを企業価値創出に照らし合わせれば、
将来FCFを生む為に投資は必要ですが、確実に価値創出に結び付くものにする必要がある、投資を絞って短期的なFCF創出に走れば、縮小均衡に陥ってジリ貧になってしまうので本末転倒ですが、マイナス項目である設備を抑えることが企業価値を大きくしますし、投下資本はなるべく極小化する事がROICを高められる、
だからシェアリングエコノミーやファブレスという経営スタイルが生まれてきた訳ですね。
なるべく自らはスリム化する方向で、でも顧客ロイヤリティを囲い込む為にネットワークでレバレッジをかける、エコシステムを作り込んでいく事が価値創造を極大化するカギになってきている、という事が分かりますね。
昔は単独で巨大化する事、勝つ為に他者を排除する、スタンドアローンと排除の論理、そして下請けや取引先など、下位からの搾取も含めて規模の経済を享受していましたが、今はそれは資本効率性に於いても圧倒的に不利な悪手、およそ悪い手な訳です。だから参入障壁でもスケールメリットの優位性が下がっているのです。
日本はまだこの論理にすがっている所がありますし、単に技術力や製品力の高さだけを参入障壁の核に据えて、最初に言ったようなビジネスモデルによる戦い方も考えずに、スタンドアローンで手あたり次第頑張る、と言う方向になりがちなのです。
そして、インテグラル型は内製で自社一貫の開発生産体制を取ることで強みを発揮している、特にニッチになる程スタンドアローンによる高技術を守らざるを得なくなる、そこがイノベーションの論理とは逆になる傾向があるのです(あくまでも傾向です。必ずしもそうなるとは限りません。)。日本にイノベーションが生まれにくい、という議論と、日本の競争優位性の議論は、往々にしてトレードオフになり易い、ということです。
そして、エコシステムの中で価値を複利的に増大させていく場合、
一方でそれぞれのレイヤ―は、その提供者のエコシステムによる恩恵を享受出来る、ネットワーク外部性で、提供者が巨大で強いブランドであればある程レイヤーにも恩恵が大きくなる、つまり完全にWinWinなので搾取の関係にはならない、
逆に中小資本の方が、そのシステムを自由に上手く利用して低い資本コストで価値創出をし易い、と言うメリットがあったりしますね。
勿論それはエコシステムの形態にもよりますから、例えばフランチャイズというのもエコシステムの一形態ですが、サプライチェーンのモデルの所で御説明したような地域ドミナント制を敷いているなど、搾取的な論理が入り込む場合もあります。
最後に、私がドラッカーのイノベーションの中で私が特に好きなのはコンテナ輸送で、既存の資源から得られる富を増大させるイノベーションの代表としてあげられたものです。
海運物流の速度競争が激化し、人々が高速船の開発に血道を上げていた時に、船の速度ではなく、全く視点を変えて、積んでいる荷物に着目、統一された規格の箱に入れてしまった事で、世界の物流を根こそぎ変えて、圧倒的な生産性の向上をもたらした訳です。
蒸気エンジンの発明は、もちろん技術革新ですが、イノベーションではありません。
蒸気機関を用いて蒸気機関車を完成させる。これも技術革新ですが、これもイノベーションではありません。
蒸気機関車を用いて、鉄道というシステムが出来たときに、ようやくイノベーションが起こったと言えるのです。鉄道システムの顧客が代金を払い、汽車に乗って行きたいところに行ける、代金が払われれば経済が動きます。経済が動かないうちはイノベーションではないのです。
ということで、少し議論が広がってしまいましたが、本日はこの辺で
よろしいですか?