新型肺炎はWHOの会見で警戒感やわらぐ。ポンドは離脱協定批准完了とBOEの金利据え置きで上昇
投資サロン「江守哲のリアルトレーディング・ストラテジー」では、配信されるメルマガで株式・債券・為替をはじめとした多くのマーケットを分析した情報を一度に確認できます。これにより江守哲氏の推奨するグローバルマクロ戦略を有効に活用することができるのです。
◇グローバルマクロ戦略について
本メルマガでご紹介する投資戦略は、ヘッジファンド業界では「グローバルマクロ戦略」のカテゴリーに属します。これは、世界のヘッジファンドのもっとも得意とする手法で、いわゆるヘッジファンド運用の「王道」です。
この戦略では、あらゆる市場に目を配り、投資機会を探しながら収益の獲得を狙います。市場価格の上昇・下落に関係なく、価格の変動が見込まれれば、それにベットする(賭ける)戦略です。ボラティリティが高いほど収益が見込まれますので、投資機会があれば果敢に攻めます。
世界情勢が不透明な中、為替や株式、金利、コモディティなど主要市場の価格変動は一段と大きくなっています。そのため、それぞれの市場の予測がきわめて困難になっています。このような市場環境では、マクロ的な見地からより幅広い市場で運用を行う「グローバルマクロ戦略」が有利です。
(江守哲のリアルトレーディング・ストラテジーより引用)
今回は2020年1月31日8時15分に配信されたメルマガから一部を抜粋してご紹介します。
〔EQUITY & BOND MARKET〕
【米欧株式・債券市場の市況解説・分析】米国株は終盤に新型肺炎をめぐる警戒感が和らいで買い戻しが入ったことから、ダウ平均は3日続伸。前日比124.99ドル高の28859.44ドルで終了。S&P500は10.26ポイント高の3283.66、ナスダック総合指数は23.77ポイント高の9298.93で引けました。VIXは0.90ポイント低下の15.49、SOXは2.90ポイント低下の1855.80で引けました。新型コロナウイルスによる肺炎の拡大懸念から、取引終盤までは売り優勢でした。中国では30日夜、感染者が8000人を突破したことが明らかになり、米国でもこの日人から人への感染が初めて確認されました。ただし、米疾病対策センター(CDC)は「米国人一般への差し迫ったリスクは依然として低い」との見方を表明。午後に入り世界保健機関(WHO)が国際的な緊急事態を宣言したものの、テドロス事務局長は「感染地への渡航や貿易を制限する勧告は行わない」と説明。経済への影響に対する警戒感が和らいだことから終盤に買い戻しが入り、プラス圏で引けました。
英国は31日、EUを離脱します。EU加盟国の脱退は初のケースとなります。EUの欧州議会は29日、英国とEUが「合意なき離脱」回避に向けて昨年10月にまとめた国際条約「離脱協定」を賛成多数で承認しました。英側は協定を実行に移す法律が23日に成立。協定は30日に批准が完了しました。
【米国株のトレード戦略】
米国株はWHOの会見で息を吹き返しました。とはいえ、まだ楽観できる状況ではないことは明らかです。とはいえ、悲観的になりすぎても、投資機会を失うだけです。押し目を粛々と買う姿勢を継続するだけです。市場は様々な材料に関心を持ちつつ投資判断をすることになりますが、繰り返すように、米国は自身の経済状況を見ながら投資行動をとっているとも言えます。また、世界の投資家も、米国がもっとも安全な投資先であることを知っています。投資資金が米国に集中し、米国株のパフォーマンスが他国の主要株価指数を大きく上回る状況は今後も続きそうです。世界の株価が下げた場合、他国の株価指数は空売りしても、米国株は下げれば押し目買いを継続したほうが、長期的には資産が増えるでしょう。
米国でもウイルス拡大の懸念がありますが、その影響は現段階では全く読めませんので、過度な懸念はしないことです。ただし、ウイルスが経済を押し上げる材料ではないことだけは確かです。投資家は報道をみてパニック売りを出す傾向がありますが、そのようなときにこそ投資チャンスが生まれます。大きく売り込まれれば、バリュエーションが低下し、割高感は払しょくされます。そうなれば、米国株はますます買いやすくなります。いまの米国株は決して割安ではありませんが、割高に向かうときが一番株価は上がります。世界の製造業PMIのサイクルや、OECD景気先行指数の変動パターンを考慮すれば、少なくとも年央までの景気拡大は確定的といえます。このようなときに、パニック売りを出すのは非常にもったいないといえます。
【日本株式・債券市場の市況解説・分析】
日経平均株価は前日比401円65銭安の22977円75銭、TOPIXは25.18ポイント安の1674.77と、ともに急反落。歯止めがかからない新型肺炎の拡大を受けて、景気悪化懸念が強まりました。円高やアジア株安も投資意欲を冷え込ませ、輸出関連株中心に売りが広がりました。銘柄の84%が値下がりし、値上がりは14%。出来高は13億6771万株、売買代金が2兆5135億円。業種別では電気機器、ガラス・土石製品、機械の下落が目立ち、上昇は証券・商品先物取引業のみ。スクリーンが急落し、東エレク、アドバンテス、ソニー、キヤノンなどの下げが目立ちました。日経平均株価は引けで節目の23000円台を割り込みました。市場では下降局面に入った可能性が高いとの声も聞かれます。中国での新型肺炎による死者は170人に達し、感染者数は7700人を超えました。底入れ期待が高まっていた企業業績も現在発表が本格化している19年4-12月期決算を見る限り、良好とは言えません。また、下げ始めたことで海外投資家からの売りが断続的に出ていたもようで、日本のウイルスリスを嫌気する動きとも考えられます。
〔CURRENCY MARKET〕
ドル円は新型肺炎の感染拡大への警戒感が続く中、安全資産としての円を買う動きが優勢となり、108円台後半に下げました。中国本土で新型コロナウイルスによる肺炎感染者が8000人を突破したことが明らかになり、米国でも人から人への感染が初めて確認されました。引き続き速いペースで感染者が増えていることが安全資産を物色する動きにつながり、ドル円は一時108.58円まで下落しました。ただし、米疾病対策センター(CDC)が「米国人一般への差し迫ったリスクは依然として低い」との見解を表明。さらに世界保健機関(WHO)が国際的な緊急事態を宣言する一方、感染地への渡航や貿易を制限する勧告は行わないと説明したことから、市場では経済への影響への懸念が和らぎ、円を売り直す動きが出ました。ユーロドルは1.1026-1036ドルで推移。安全資産であるスイスフランも上昇しました。人民元は一時1ドル=7元を下回り、1カ月ぶりの安値を更新しました。
BOEは30日に開いた金融政策委員会で政策金利据え置きを決定しました。ただし、発表直前に英ポンドが急騰したことを受けて、事前に決定内容が漏れていたとの見方が出ているようです。金融政策委は政策金利を0.75%に据え置くことを7対2で決定。昨年12月の総選挙以降、英経済は上向いた兆候が出ていることに加え、世界経済も安定化したため、追加的な刺激策は現時点では必要ないとの見解を示しました。市場筋によると、この発表直前にポンド先物に1億ポンド以上の買い注文が入ったもよう。発表1分前は対ドルで1.3024ドルでしたが、1秒前には1.3075ドルに急上昇していました。
英国の景気低迷が懸念されていましたが、31日のEU離脱直前の利下げは見送られた格好です。金融政策委員会(MPC)のハスケル、サンダース両外部委員は0.25%の利下げを主張しました。両氏は昨年11・12月のMPCでも0.25%の利下げを訴えていました。量的緩和の国債買い取り枠は4350億ポンドに維持しました。
声明で中銀は、ジョンソン首相率いる与党・保守党が昨年12月の総選挙で大勝を収め、離脱の不透明感が低下したことで「企業活動の調査結果が改善し、投資意欲も回復したもようだ」とし、政府が3月に予定している景気刺激策も踏まえ、現時点での利下げは不要と判断しました。一方で、「国内外の経済が停滞すれば、成長を下支えする政策が必要になる」とも指摘し、今後の利下げには含みを持たせました。
【通貨トレード戦略】
ドル円はショートを維持します。そろそろ反発しそうですが、それを確認してから判断します。新型ウイルスの影響を市場は依然として懸念しています。WHOの会見を受けて市場がどのように反応するのか、一日見てみたいと思います。株価が戻せば、ドル円も買われそうです。気になるのは、日本に帰国した方からウイルス感染が確認されていることです。国内で感染者が増えないことを祈るばかりです。ドル円は108.80円で辛うじて支えられている状況です。109円台を回復できれば、再び上向くことになりそうです。
ポンドドルは再び上向きました。とうとうブレグジットの日がやってきました。今後の貿易交渉は難航しそうですが、離脱した後ですから粛々とやるしかないでしょう。金融政策委員会では利下げ見送りとなりました。これもポンド買いにつながったといえます。下値は堅いといえます。長期トレンドの転換ポイントは1.2805ドルです。昨年12月末時点のポンドドルの理論値は1.5470ドル程度です。かなり引き上げられました。いまの水準は相当割安であることは否定のしようがありません。いずれ1.50ドルに近づいていくとの見方を維持します。すでにダブルボトムを付けていますので、ロング戦略が基本としてみていくのが妥当でしょう。
〔COMMODITY MARKET〕
【貴金属市場の市況解説・分析】金相場は上昇。中国を中心に拡大する新型肺炎による世界的な景気減速懸念で投資家のリスク選好姿勢が弱まりました。ただし、WHOの会見で株価が戻りており、高値からは下げています。新型コロナウイルスの急拡大が、世界第2位の経済大国である中国の経済成長に打撃を与えるとの不安感から金融市場では急速に売りが強まり、安全資産としての金や日本円、スイスフランなどへ資金を退避させる動きが強まっています。市場では、今後も米国債や金などが好まれる取引対象となる公算が大きいとの見方が聞かれます。パウエルFRB議長は29日のFOMC後の会見で、予想されていた通り政策金利の据え置きを発表しましたが、中国経済だけでなく、米国経済の短期的な減速リスクについても言及しました。市場では当面の間、低金利環境が続き、これが金利を生まない金の魅力を高め、相場を下支えするとの見方が根強いといえます。
【貴金属のトレード戦略】
金のロングを維持します。新型ウイルスへの懸念は根強いといえます。株式市場は当面不安定な動きになると考えられます。このような状況下、金市場は投資家の資金の受け皿になりやすいでしょう。金利も低下していますので、金利がつかない金は買われやすいといえます。いずれにしても、下値をきれいに切り上げてあげています。金を保有しておくことを優先したいところです。また、下げても主要国の政府・中銀の押し目買いが入りますので、下値は限られるでしょう。今後も米金利が上昇しづらい状況が続けば、少なくとも金相場が下げに転じることはなさそうです。現在の長期トレンド転換のポイントは1480ドルですので、まだ相当の余裕があります。
『江守哲のリアルトレーディング・ストラテジー』(江守哲)より引用。
参考チャート:ポンドドル1時間足
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