人工知能と相場とコンピューターと|第1回 プロローグ[奥村尚]
奥村尚さんプロフィール
おくむら・ひさし。1987年工学部修士課程修了。テーマはAI(人工知能)。日興証券で数々の数理モデルを開発。スタンフォード大学教授ウィリアム・シャープ博士(1990年ノーベル経済学賞受賞)と投資モデル共同開発、東証株価のネット配信(世界初)。さらにイスラエルのモサド科学顧問とベンチャー企業を設立、AI技術を商用化し大手空港に導入するなど、金融とITの交点で実績多数。現在はアナリストレーティングをAI評価するモデル「MRA」、近将来のFXレートをAI推計する「FXeye」、リスクとリターンを表示するチャート分析「トワイライトゾーン」を提供。日本の金融リテラシーを高めるため、金融リテラシー塾を主催している。
趣味はオーディオと運動。エアロビック競技を15年前から始め、NACマスター部門シングル9連覇、2016年シニア2位、2014~2016年日本選手権千葉県代表、2017~2018年日本選手権 マスター3準優勝。スポーツ万能と発言するも実は「かなずち」であり、球技も苦手である。座右の銘は「どんな意思決定でも遅すぎることはない」。
ブログ:https://okumura-toushi.com/
ボードゲームにおける人工知能の進化の歴史
人工知能は人類の英知、ノウハウ、判断能力を機械で実現します。機械が自身で考えて判断し、行動できる技術です。その存在を世界に誇示したのは、なんといってもチェス、将棋、囲碁などのボードゲームでの圧倒的な成果でしょう。
将棋とチェスはインドのボードゲームが起源とされています。どちらも相手の王を取ることを目的とし、駒の役割や動き方もそっくりです。駒はマスを単位として動きますが、チェスが8×8マス、将棋は9×9マスとなっています。将棋の方が行動範囲が広く、取られた駒は相手の駒として復活するのでルールが複雑です。囲碁は駒の動きや勝敗のルールが将棋やチェスとは異なり、さらに盤の大きさも19×19マスなのでさらに複雑とされています。
こうしたゲームの人工知能化に関してはいずれ掘り下げてみようと思いますが、まず思い浮かべるのはチェスではないでしょうか。世界中にファンがおり、愛好家人口は推計5億人とされています。囲碁の場合だと愛好家人口はチェスの10分の1以下で推計4000万人、将棋は世界的にはあまり普及しておらず、囲碁のさらに数分の1で、推計1000万人です(愛好家人口はいずれも世界人口で重複愛好家を含みます。レジャー白書『公益財団法人日本生産性本部余暇創研』、その他の資料より著者が推計)。
チェスは愛好家が多く、ルールが単純であるという理由も手伝って、最も古くからコンピュータによる解析や人工知能化の研究が進んでいたゲームです。
ここで気づいたのですが、ある技術は人工知能であるか否かという議論がときどき起こります。この記事は情報工学の専門誌への寄稿ではないので、人工知能の細かな定義や分類は意識しないで、私が直感的に伝わりやすいと思った単語を使っていきます。具体的にはコンピュータ、人工知能、アルゴリズム、プログラムなどと、いろいろな表現で進めていくことにします。
さて、コンピュータ上のチェスプログラムが、人間のチェス選手権に初参加したのが1967年のことでした。この当時から一定の完成度があり、アマチュアの中ではやや強いプレーヤーレべルの評価がされていました。初挑戦にしてこの実力は上出来でしょう。その後も人工知能は進化を続けますが、トッププロに挑戦しては破れ続け、1990年代後半まで勝てませんでした。
変化が起こったのは、1997年です。この年、チェスで世界王者が初めて人工知能に敗れたのです。対戦相手はIBMの「Deep Blue(ディープ・ブルー)」という名の人工知能マシンでした(画像①)。当時の世界チャンピオンであったガルリ・カスパロフ氏がディープ・ブルーに敗れました。カスパロフ氏は敗れる前年にはディープ・ブルーに勝利していたのですが、その1年後に負けたわけです。「コンピュータが人間を超えた」と大変な騒ぎとなりました。
将棋では、2015年の電王戦(日本)にてプロ5名とコンピュータ5台の戦いにおいて、実力が拮抗しました。そのときは、プロ側が機械処理のクセを見抜き、バグを誘発させるような意表を突く手を使い、3勝2敗でかろうじて勝ち越しました。しかし、翌年の2016年にはプロが連敗し、人工知能が圧倒的に強くなったことを見せつけました。
囲碁でも2016年、Googleのプログラム「AlphaGo(アルファ碁)」が、世界最強といわれたプロ棋士の李世ドル(イ・セドル)九段に勝ち越しました。既に人工知能は人間の能力を超えた域に達したという証拠といえるでしょう。
人工知能の能力を、もし投資の世界で生かすことができたら、お金をどんどん自動的に増やしてくれるのではないでしょうか。将棋やチェスで勝つよりも、お金を儲けることができるはずです。これは世界中の大資本、天才たちが挑戦している夢なのです。
今回は、大昔からの人工知能の歩みをたどっていきます。人工知能はコンピュータで動くソフトなので、ハードであるコンピュータの能力も重要な要素です。ソフトの進化と合わせて、ハードの歴史も紹介していきたいと思います。FX、特にドル円の歴史も同時代性がありますから、FXの歴史も重ねながら、進めていきましょう。
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