「三世一目山人」細田哲生 7000文字インタビュー「一目均衡表の成立秘話と一目山人の肖像」
細田哲生さんプロフィール
ほそだ・てっせい。一目均衡表の開発者、一目山人の孫として、祖父の遺志を継承し、一目均衡表の普及と正しい活用法の教育を精力的に行う。一目均衡表の原著を対象とした勉強会を毎月開催する他、各証券会社や投資系メディアでレポートを配信中。
●聞き手:鹿内武蔵(編集部)
一目山人の生い立ちは家族もよく知らない
鹿内 一目山人は細田さんにとっておじいさんにあたりますが、詳しいプロフィールはご存じですか。
細田 正直にいって、私も私の父も、どういった学校を卒業して、どんな仕事をしていたのか詳しく聞いたことがないんですよね。なので、私が調べて分かったことをお伝えします。
生まれは1898年(明治31年)で出身は山口県、今の豊田町というところです。実家は個人商店を営んでいて、地元の農家に農機具の貸し出しや販売をしていました。農家から商品作物を買って大阪に流す仕事もしていたようです。
学歴についてははっきり分かっていませんし、職歴も都新聞(今の東京新聞の前身)に入社するまではところどころ曖昧ですね。社会と関わっていたのは、都新聞で記者として勤めていた十数年といって良いでしょう。第二次世界大戦中に都新聞を退職した後のことは詳しく分かりません。私の父や叔母たちも、何によって生計を立てているのか分かっていなかったようです。
文化人の憧れの新聞社へ記者として入社
鹿内 都新聞に入社したのは何歳のときですか。
細田 24歳のときです。その前に、20歳のときにシベリア出兵で徴兵されていることは調べて分かったのですが、帰国後から都新聞入社まで何をしていたのかは不明です。入社したのは1922年なので、第一次世界大戦の後、関東大震災の直前ですね。
鹿内 都新聞社に入った経緯も分かれば教えてください。
細田 一目山人本人は明言を避けていましたが、長州閥で財閥を作った一族と親戚ということもあり、おそらく都新聞への入社は、長州閥の意向が大きかったのだと思います。
明治31年生まれだと藩閥から学閥が強い時代に変わった時期なので、彼は藩閥を利用した最後の世代ではないかと私は想像しています。本人は藩閥とはいわず、社長に引き抜かれたといってましたけどね。社長も相場に詳しい人だったようです。
鹿内 都新聞は、経済新聞の位置付けですか?
細田 大衆紙ですね。市況など経済に限った内容ではなく、社会面や芸能面の話題も取り上げていました。明治時代に入り廃れつつあった歌舞伎などの伝統芸能を復興させつつ、新しい演劇を紹介することに力を入れていたため、教養人に愛されていた新聞です。坂口安吾は、ル・モンドに似て風刺を効かせた新聞だと評していますし、太宰治も都新聞の入社試験を受けています。作家志望の若者の憧れ的存在だったようです。
相場の恐ろしさを知り相場に目覚める
鹿内 入社後は商況や株式の記者をしていたということですね。
細田 入社当初から株式の責任者になりました。ペンネームが二つくらいあったみたいですね。入社当時は株式欄よりも商況欄の方が大きかったのですが、時代の変化で株式欄が大きくなっていきます。当時は物価が生活に直結する問題だったんですよね。値段もころころ変わるので、みんな情報を追っていました。大阪のような商人が多い地域では、ラジオ放送全体のうち六割以上が商況番組でした。ちなみに東京では三割弱、名古屋では東京の半分くらいです。
また、一目山人が株式のコメント欄を担当するようになった当時は、新興財閥も大きくなっていました。戦後に一部上場企業の社長となるような財界人との繋がりも、新聞記者時代にたくさん作っていたようです。キリン、アサヒ、サッポロの社長とは晩年まで付き合いを続けていました。昭和電工や新日鉄の経営陣とも付き合いが深かったです。
鹿内 いち新聞記者としては、とてもスケールが大きいですよね。一目山人が相場に目覚めたのは、都新聞に入社してからだったのでしょうか。
細田 おそらくそれ以前だろうといわれていますね。本人の実家も親戚もみんな大地主だったのですが、米相場でやられてしまい、没落しました。
鹿内 米相場にやられる?
細田 当時、現金収入があるのは作物の収穫期だけだったので「相場をやって、収穫期以外も現金収入を得ませんか」という誘いに巻き込まれたんですね。そうやって没落した豪農が、明治時代には多かったんです。一目山人自身は明治31年生まれなのでそれらの出来事に直面したわけではありませんが、周りの大人たちから昔話を聞いて、相場師を志したのだと思います。
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