原油急落の原因・インプリケーション 井上哲男氏
潮流1025 WTI5月限マイナス37.63ドルが含むインプリケーション1
昨日、日経平均の3乖離合計のレベルについて述べ、先週は25日移動平均乖離率が6.441%の時点でテクニカル的な警鐘を鳴らしたが、昨夜、ダウは600ドル近い下落となった。1日の下落幅としては、正直「このくらいで済んで良かった。他の指数の動揺もダウほどでは無かったし」という印象を持つが、本来、本日書こうと考えていた先週末時点でのダウの25日移動平均乖離率は、昨日の「Sign」に記したように、プラス10.75%。とんでもなく高い水準であったことをまずは覚えておいて欲しい。
昨夜の株式市場の下落は、原油先物の通常では考えられない、「マイナス価格」が引き起こしたものであるが、この事実は多くのインプリケーションを含んでいる。
まず、この引き金となったのは、本日4/21が5月限の最終売買日であり、その前に手仕舞う、というよりも、手仕舞わなくてはならないという喫緊の事態が生じたのだということ。そのため、6月限の下げは、5月限(当限)ほどではなく、無論下げたものの、1バレル=20.43ドル(先週末比4.60ドル下落)で踏みとどまった形だ。
「手仕舞わなくてはならない喫緊の事態」とは、商品取引が「現物+資金のやり取り」であるということに起因する。意外と知られていないが、WTIの先物取引において、原油の現物の受け渡しが行われるのがオクラホマ州。昨日の引け値、1バレル=マイナス37.63ドルでもし今夜取引が終わったとしたら、例えば1000バレルの「買い方」は、受け渡し日に「原油1000バレル+3万7630ドル(約400万円)」を受け取ることになり、同量の「売り方」(買い方(建玉)が残っているということは、同量の売り方が残っているということ)は、受け渡し日に「3万7630ドル(約400万円)を払って原油を渡す」ということになる。
一見すると、「買い方有利」のような気がするが、それが全く違う。このような異常な受け渡しの背景にあることは、買い方が“受け取った”原油を無論海に廃棄することは出来ないので、どこかに保管・貯蔵しなくてはならず、その費用が3万7630ドル(約400万円)などでは到底足りないということなのだ。だから、買い方が焦って手仕舞い売りを行い、このような通常は考えられない、市場開設以来初の「マイナス価格」となったのである。
潮流1026 原油急落のインプリケーション2
昨日に続いて原油相場について述べると、昨夜、この日から中心限月(期近物)となった6月限は、1バレル11.57ドル(前日比8.86ドル下落)で取引を終えた。一時は6.50ドルまで下落する場面もあった。
昨日、マイナス価格にまで落ち込んだ理由として書いた「保管・貯蔵」であるが、米エネルギー情報局(EIA)が毎週発表している週間石油在庫統計によると、既に先週発表(15日)まで在庫の積み上がりが12週連続で続いており、直近発表分(4/10の週分)が1920万バレルと、週次の量としては、過去最大を記録していた。また、これにより、戦略備蓄分を除いた米国の原油在庫は、5億バレルを超えてしまった。実に直近3週間でその10%に相当する5000万バレル以上も増加したのだ。
現状の米国の経済活動を考えると、在庫圧縮にはかなりの時間がかかり、「米国が生産を減らすまで価格は回復しない」と見るのが自然だが、この「生産」であるが、完全にストップするわけにはいかない。というのは、生産設備(リグ)は一度停止すると再開の際に大きなコストがかかるため、価格を下げてでも、量を抑えてでも、生産を続けた方が損失は少なくて済むというものなのだ。いずれにせよ、米国の原油在庫能力のMAXは6億5000万バレルとされている。今夜の数字で4/17時点で、どこまで先週(5億バレル)の数字と変わっているかを見なくてはならない。場合によっては、(無茶苦茶割高な)海上に浮かぶタンカーでの保管まで必要となる可能性が出てくる。
現在のWTIの価格は、結果的に、「原油の想定価格」だけでなく、そこから「保管料」を引いて導かれている。となると、有り得ないようだがマイナス価格も理論上成り立つのだ。商品が「現渡しシステム」である以上。。。
さて、昨日書いたダウの先週金曜日時点での25日乖離率10%超(10.75%)であるが、前回、これが起きたのが、リーマンショック後の最安値を記録した09年3月(10日)からの戻り局面である09/3/26のこと。あのときと、現在では、“明るさ”が明らかに違う。それゆえ、先週金曜日時点でのダウの過熱感は行き過ぎであり、この2日間の大きな下げは、原油価格が招いたとはされるが、違和感はない。
よろしいですか?