【無料全文公開】就任200日後、トランプ政権をめぐる変化とは[安田佐和子]
安田佐和子さんプロフィール
やすだ・さわこ。三井物産戦略研究所北米担当研究員。世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移す。金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、ストリート・ウォッチャーの視点からニューヨークの不動産動向、商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信中。2011年からは総合情報サイト「My Big Apple NY」を立ち上げ、ニューヨークからみたアメリカの現状をリポートしている。
総合情報サイト:My Big Apple NY
※この記事は、FX攻略.com2017年12月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
物議醸す大統領令と政権人事の不安定さ
不動産王との称号を持つドナルド・トランプ氏が第45代米大統領に就任してから、8月7日で就任200日を迎えました。“米国第一”を掲げるトランプ氏はこれまで数々の大統領令に署名、官報に加えられない覚書を含むと74件(2017年8月27日現在)に及びます。
そのうち1月23日の環太平洋パートナーシップ(TPP)協定離脱や、3月6日に修正されたイスラム教6か国に対する入国禁止令への署名は、世界に衝撃を与えたものです。 8月14日には米大統領覚書を通じ、中国に知的財産権侵害の懸念、加えて米企業が中国へ進出する際の技術移転を余儀なくされる状況に関する調査を米通商代表部(USTR)に指示。制裁関税措置を講じるか否か、約1年間にわたって判断する見通しです。
その一方で、トランプ政権ではいまだ政治任用職に空席が数多く見られます。ワシントン・ポスト(WP)紙によると、8月26日時点で米上院の承認が必要な政治任用ポストの591のうち承認済みは117名で、そのうち368席は指名すらされていません。歴代大統領と比較すると、8月休会前に米上院の承認を得た数はWP紙が重要ポストとカウントしていない職を合わせ 、トランプ政権では124席でした。トランプ政権以前の歴代大統領、ブッシュ氏(父)からオバマ氏の平均値266席の半分にも届きません。
難航する政権人事
政治任用ポストが埋まらない中、ホワイトハウス内でも目まぐるしく高官の入れ替えが行われ、トランプ米大統領が就任してから政権を去った高官は20人以上に及びます。始まりは、米大統領選後まもなくの2016年12月にキスリャク・ロシア大使(当時、7月に辞任)との接触が問題視され2月13日に辞任したマイケル・フリン前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ですね。
望む望まずにかかわらず、政権から離れた人々にはある傾向が見てとれます。例えば国家安全保障会議(NSC)では諜報担当ディレクターのエズラ・コーエン・ワトニック氏や、中東担当上級部長のデレク・ハーベイ氏などは、フリン前大統領補佐官の子飼いだった方々でした。後任のマクマスター補佐官が着任してから、仕切り直しているためです。
その他、前週末に離任したバノン前首席戦略官と同じくブライトバート出身の元記者でNSC担当の次席補佐官だったテラ・ダール氏は、首席戦略官より1か月も前に辞任していました。まるで、布石だったかのようですね。セバスチャン・ゴルカ大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)と合わせ、2人は“国家主義者”のバノン氏傘下にあるブライトバート出身者です。
フリン氏、バノン氏陣営を軸とした人事刷新は象徴的とさえいえます。振り返れば、両者の関係は決して悪くありませんでした。バノン氏が首席戦略官在任中の4月、NSCから外されたフリン氏の息子が「トランプ米大統領に最も忠実な2人(共にNSCから追い出された)」とツイート。さらに、「ホワイトハウスは敵を打破することに真剣なのだろうか」と疑問を放ったものです。
仮にバノン氏のような“国家主義者”が政権から離れれば、マクマスター大統領補佐官やプリーバス前首席補佐官の更迭後に就任した軍部出身のケリー氏がホワイトハウス内を統率できるのかは、まだ様子を見る必要があります。ただ、バノン氏自ら、対立した相手と明かした国家経済会議(NEC)のコーン議長をはじめ“国際主義者”からすれば、少なくとも経済政策運営が以前よりスムーズになる可能性を残します。
トランプ政権、辞任・解雇リスト 出所:ビジネス・インサイダー、NYタイムズ紙など各報道より三井物産戦略研究所作成、赤字はオバマ氏が指名、青字は就任予定
トランプノミクス規制緩和の推進
就任200日を経て、人事を軸にトランプ政権の不安定ぶりが指摘されることが多い一方で、進展もあります。トランプノミクスの一つ“規制緩和”では、共和党と足並みをそろえてきました。1月20日以降の法案成立数は就任200日時点で44本と、レーガン以降の大統領1期目平均の47本とさほど変わらないのです。このうち3割に相当する14本は、オバマ前政権が発表した規則の発効を阻止したものでした。共和党の努力の賜物で、共和党が両院の過半数を獲得していた1996年に成立した議会審査法を活用しています。
もちろん、大統領も規制の発効を阻止する手段を有しています。2月24日に署名した大統領令で各省庁に見直しを求めタスクフォースの設置を命じました。さらに、大統領直属機関で予算策定の他、経済的評価を担当する行政管理予算局傘下の情報・規制問題室(OIRA)は7月、2016年秋時点で検討段階にある規則のうち469件の取り下げ、391件の再評価の実施を発表しています。トランプ政権と共和党議会は、静かにそして着実に規制緩和を推進していたのですね。
就任200日、法案成立数 出所:Govtrackより三井物産戦略研究所作成
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