真のバリュー投資を身に着ける人へ Cash Conversion Cycle を学ぶ 柳下 裕紀 氏
株式
真のバリュー投資の講義が好評の柳下 裕紀 氏の今号のお話は、Cash Conversion Cycleです。
株式投資家必見の内容です。
2020年5月No.3『原則論に囚われず、数字や実務解で考える-最適資本構成、CCC、フローとしての在庫』
こんにちは。5月最後の配信です。
以前御伝えしたかと思うのですが、今度、きんざいから本を出します。
と言っても、ベースは『真のバリュー投資徹底講義』の内容で、そこにかなりの加筆をしています。
ご存知の通り、『真の~』は第1部~第4部までですが、第5部までにする予定で、プラスそれぞれの章にも、深堀や余談を沢山入れ込んでますし、さらに沢山企業ストーリーを加えてますので、是非読んで頂ければ。
と言っても、まだ初稿を入れてない(汗)ので、発売は9月位になるのかなあ。
今回は、ちょっと先んじて、加筆した所を一部だけ御紹介+それにちなんだ話を。
最適資本構成について、『真のバリュー投資徹底講義』の中で、事業ステージによって異なること、具体的には、
導入期・・E > D(または、資本レバレッジを効かせない)
成長期・・E > D(資本レバレッジは、あまり効かせない方が良い)
成熟期・・E ≒ D(資本レバレッジを適度に効かせる)
衰退期・・E < D(資本レバレッジを効かせてもOK)
と説明しました。
現在は、御存知の通り、日本の金利は歴史的な低水準で、短期~中期の国債の利回りはマイナスにもなっています。
このため、βが高め、つまり株主のリスク認識が高くなって、株主資本コストが高くなっている企業が、負債の割合を増やすことで、加重平均の資本コストがかなり下げている事例も割と多いです。
これ自体は、経営の意思決定として正しいです。ファイナンスの意識が高いということは喜ばしい。
ただし、これだけでは、最適資本構成としては、正しいとも間違っているとも言えません。
要するに、現状では、負債資本コストが株主資本コストよりも理論的に低い、つまりリスクが高い分、企業業績の変動の影響を受けるのは、債権者ではなく株主である、という基本原則から、というよりは、単に現在の金利水準が低い影響の方が大きくなっているということです。
勿論、MM理論にもある通り、負債資本を増やすことで節税効果の現在価値分だけ、企業価値が高まりますから、この優位性も享受出来ているはずです。
しかし一方で、負債がない場合、株主の直面するリスクは、事業リスクのみです。事業リスクとは、企業の将来生み出すFCFのバラツキですが、これに負債が加わる(=レバレッジをかける)ことにより、FCFのバラツキが増すことになります。
端的に言えば、良い時は凄く良いが、悪い時は凄く悪い、ということになるのです。レバレッジをかける=負債が加わることで、株主は、事業リスクに加えて、財務リスクを負担することになるからです。
これが、業績変動が比較的小さい企業の場合は、資本レバレッジを利かせることによって、株主のリスク=リターンを向上させることが合理的であり、その逆に業績変動の比較的大きな企業の場合、資本レバレッジを抑え、株主のリスク=リターンを過大にしないような適正資本バランスが必要になる理由です。
つまり、必ずしも負債資本を増やすことが資本コスト低減に繋がる訳では無い、ということですね。
最初の段階では、とにかく基本原則を御伝えしていますが、実際にはそんなに単純に白黒つけられるものではなく、前提条件や前後関係、諸々の要件によって正しいかどうかは変わってくるのです。
それは、例えば、CCC(Cash Conversion Cycle)でも同じです。
CCC=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-支払債務回転期間で計算されるため、基本は、短ければ短いほど良い、という風にお伝えしていますね。
企業が原材料や商品仕入から最終的に回収して現金化されるまでの日数で、資金効率を見るための指標です。つまりは運転資本ですから、小さいほど資金効率は良いというです。
そして、短くするために売上債権回転期間と棚卸資産回転期間を短く、支払債務回転期間は長い方が良い。
しかし、棚卸資産回転期間が短すぎると、品切れによる機会損失が発生することになります。
また、支払債務回転期間が長すぎることは資金繰りは楽にはなるものの、仕入先にとっての運転資本(借入金)の増加につながり、その利息を納入価格に転嫁してくる可能性があります。
実際、実務の上では、購買部門が支払までの期間を短くすることで納入価格の値下げにつなげることは良くあることです。
さらに、AmazonのようにCCCがマイナスの場合、これは支払よりも入金が先であることを意味しますので、運転資本が必要ないことを意味します。売上拡大によって運転資本が減少、つまりキャッシュフローは増加します。
しかし実は、CCCマイナスにも負の面があります。売上高が減少する局面においては運転資本のマイナス額が縮小する、つまりキャッシュフローが減少してしまいます。
このメカニズムによって経営破綻に至った企業が英会話のNOVAです。当時、受講生が前払いした受講料の中途解約の問題で世間を騒がしていました。売上拡大期には先に獲得したキャッシュを新規開校への投資に振り向け急成長しました。この本によれば、2004年3月期ではCCC はマイナス150日近くあったようです。
ところが売上減少局面では中途解約の増加もあって前払い分が大きく減少し、それがキャッシュフローの減少に拍車をかけ、NOVAは資金繰りに行き詰まり倒産ということになったのでした。
こうして、単に原則だけにとらわれて数字を見ず、全てを良く見る、その数字が表す意味についても理解することが大事です。
運転資本、という事で言えば、例えば在庫、これを単にストックとして見るのではなく、フローで見ればどうなるか?
もしある企業が10億の在庫を持っていたとして、ROICが5%だったとすれば、
10億×5%=5千万なので、機会損失は5000万円ということになります。
その分のストック金額を事業に投じていれば、それだけのフローのキャッシュを得ることが出来たはず、ということです。
勿論在庫がなければモノも作れませんから、それ以上のキャッシュを生み出すことが出来れば良いのですが、現実的な数字として押さえておく、という事は非常に重要ですね。
では本日はこの辺で。
以前御伝えしたかと思うのですが、今度、きんざいから本を出します。
と言っても、ベースは『真のバリュー投資徹底講義』の内容で、そこにかなりの加筆をしています。
ご存知の通り、『真の~』は第1部~第4部までですが、第5部までにする予定で、プラスそれぞれの章にも、深堀や余談を沢山入れ込んでますし、さらに沢山企業ストーリーを加えてますので、是非読んで頂ければ。
と言っても、まだ初稿を入れてない(汗)ので、発売は9月位になるのかなあ。
今回は、ちょっと先んじて、加筆した所を一部だけ御紹介+それにちなんだ話を。
最適資本構成について、『真のバリュー投資徹底講義』の中で、事業ステージによって異なること、具体的には、
導入期・・E > D(または、資本レバレッジを効かせない)
成長期・・E > D(資本レバレッジは、あまり効かせない方が良い)
成熟期・・E ≒ D(資本レバレッジを適度に効かせる)
衰退期・・E < D(資本レバレッジを効かせてもOK)
と説明しました。
現在は、御存知の通り、日本の金利は歴史的な低水準で、短期~中期の国債の利回りはマイナスにもなっています。
このため、βが高め、つまり株主のリスク認識が高くなって、株主資本コストが高くなっている企業が、負債の割合を増やすことで、加重平均の資本コストがかなり下げている事例も割と多いです。
これ自体は、経営の意思決定として正しいです。ファイナンスの意識が高いということは喜ばしい。
ただし、これだけでは、最適資本構成としては、正しいとも間違っているとも言えません。
要するに、現状では、負債資本コストが株主資本コストよりも理論的に低い、つまりリスクが高い分、企業業績の変動の影響を受けるのは、債権者ではなく株主である、という基本原則から、というよりは、単に現在の金利水準が低い影響の方が大きくなっているということです。
勿論、MM理論にもある通り、負債資本を増やすことで節税効果の現在価値分だけ、企業価値が高まりますから、この優位性も享受出来ているはずです。
しかし一方で、負債がない場合、株主の直面するリスクは、事業リスクのみです。事業リスクとは、企業の将来生み出すFCFのバラツキですが、これに負債が加わる(=レバレッジをかける)ことにより、FCFのバラツキが増すことになります。
端的に言えば、良い時は凄く良いが、悪い時は凄く悪い、ということになるのです。レバレッジをかける=負債が加わることで、株主は、事業リスクに加えて、財務リスクを負担することになるからです。
これが、業績変動が比較的小さい企業の場合は、資本レバレッジを利かせることによって、株主のリスク=リターンを向上させることが合理的であり、その逆に業績変動の比較的大きな企業の場合、資本レバレッジを抑え、株主のリスク=リターンを過大にしないような適正資本バランスが必要になる理由です。
つまり、必ずしも負債資本を増やすことが資本コスト低減に繋がる訳では無い、ということですね。
最初の段階では、とにかく基本原則を御伝えしていますが、実際にはそんなに単純に白黒つけられるものではなく、前提条件や前後関係、諸々の要件によって正しいかどうかは変わってくるのです。
それは、例えば、CCC(Cash Conversion Cycle)でも同じです。
CCC=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-支払債務回転期間で計算されるため、基本は、短ければ短いほど良い、という風にお伝えしていますね。
企業が原材料や商品仕入から最終的に回収して現金化されるまでの日数で、資金効率を見るための指標です。つまりは運転資本ですから、小さいほど資金効率は良いというです。
そして、短くするために売上債権回転期間と棚卸資産回転期間を短く、支払債務回転期間は長い方が良い。
しかし、棚卸資産回転期間が短すぎると、品切れによる機会損失が発生することになります。
また、支払債務回転期間が長すぎることは資金繰りは楽にはなるものの、仕入先にとっての運転資本(借入金)の増加につながり、その利息を納入価格に転嫁してくる可能性があります。
実際、実務の上では、購買部門が支払までの期間を短くすることで納入価格の値下げにつなげることは良くあることです。
さらに、AmazonのようにCCCがマイナスの場合、これは支払よりも入金が先であることを意味しますので、運転資本が必要ないことを意味します。売上拡大によって運転資本が減少、つまりキャッシュフローは増加します。
しかし実は、CCCマイナスにも負の面があります。売上高が減少する局面においては運転資本のマイナス額が縮小する、つまりキャッシュフローが減少してしまいます。
このメカニズムによって経営破綻に至った企業が英会話のNOVAです。当時、受講生が前払いした受講料の中途解約の問題で世間を騒がしていました。売上拡大期には先に獲得したキャッシュを新規開校への投資に振り向け急成長しました。この本によれば、2004年3月期ではCCC はマイナス150日近くあったようです。
ところが売上減少局面では中途解約の増加もあって前払い分が大きく減少し、それがキャッシュフローの減少に拍車をかけ、NOVAは資金繰りに行き詰まり倒産ということになったのでした。
こうして、単に原則だけにとらわれて数字を見ず、全てを良く見る、その数字が表す意味についても理解することが大事です。
運転資本、という事で言えば、例えば在庫、これを単にストックとして見るのではなく、フローで見ればどうなるか?
もしある企業が10億の在庫を持っていたとして、ROICが5%だったとすれば、
10億×5%=5千万なので、機会損失は5000万円ということになります。
その分のストック金額を事業に投じていれば、それだけのフローのキャッシュを得ることが出来たはず、ということです。
勿論在庫がなければモノも作れませんから、それ以上のキャッシュを生み出すことが出来れば良いのですが、現実的な数字として押さえておく、という事は非常に重要ですね。
では本日はこの辺で。
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よろしいですか?