人工知能と相場とコンピューターと|第5回 日本の登場[奥村尚]
奥村尚さんプロフィール
おくむら・ひさし。1987年工学部修士課程修了。テーマはAI(人工知能)。日興証券で数々の数理モデルを開発。スタンフォード大学教授ウィリアム・シャープ博士(1990年ノーベル経済学賞受賞)と投資モデル共同開発、東証株価のネット配信(世界初)。さらにイスラエルのモサド科学顧問とベンチャー企業を設立、AI技術を商用化し大手空港に導入するなど、金融とITの交点で実績多数。現在はアナリストレーティングをAI評価するモデル「MRA」、近将来のFXレートをAI推計する「FXeye」、リスクとリターンを表示するチャート分析「トワイライトゾーン」を提供。日本の金融リテラシーを高めるため、金融リテラシー塾を主催している。
趣味はオーディオと運動。エアロビック競技を15年前から始め、NACマスター部門シングル9連覇、2016年シニア2位、2014~2016年日本選手権千葉県代表、2017~2018年日本選手権 マスター3準優勝。スポーツ万能と発言するも実は「かなずち」であり、球技も苦手である。座右の銘は「どんな意思決定でも遅すぎることはない」。
ブログ:https://okumura-toushi.com/
※この記事は、FX攻略.com2020年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
金ドル本位制と自由貿易の拡大
1960年代は、新しい国際経済協力体制が確立し、貿易が世界的に拡大してゆく時代です。為替相場は、米国中心に連合国が決めたブレトンウッズ体制で、各国通貨とドルの交換比率は固定されていました。その上で、決済通貨をドルに決めたわけです。ドルはゴールド(金)と交換できたため、金ドル本位制ともいいます。
金は埋蔵量が限られています。過去採掘した金は約18万4000トン、これから採掘できる金は約5万6000トンで、合わせて約24万トンしかありません。全て合わせて競技プール5杯分です(田中貴金属調べ)。貿易の増加で外国通貨は流通が増えますが、それに併せて金の流通を増やすことはできません。金の量は増えないのに、貿易量に比例してドルの量は増えるわけです。
ブレトンウッズ体制は、別名IMF-GATT体制です。米国が経済援助を通じて欧州諸国の復興を徐々に進めたおかげで、1960年には欧州各国の通貨が回復しました。
モノの購入だけではなく、資本取引における通貨の交換性まで自由化は進んだのです。資本取引とは、株式や社債の発行など、資本金を増減させる取引のことをいいます。要するにマルクベースの国であるドイツ企業の売買を、フランベースであるフランスが行うとき、マルクに換えてフランで決済できる、ということになります。
その交換レートが、すなわちFXレートになります。このとき、フランスとドイツの金利水準の差に応じて、本来はレートが決まるはずです(金利が高い国の通貨の方が黙っていても金利で増えるので有利)。しかし、レートは固定でした。
政策的にも、各国がとるマクロ政策で決めた金利水準が、国境を越えた資本取引によって相殺され効果がなくなるという矛盾が生じます。
金1オンス=35ドルと定めたこの体制は、固定通貨レートという矛盾、米国の国際収支の赤字によるドルの信頼失墜、金の埋蔵量が有限であることなど、数々の矛盾がありました。その解決は、1971年のニクソンショックを待つことになります。
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