【無料全文公開】外為オンライン・佐藤正和の実戦取引術|3大通貨の未来を予測するテクノ&ファンダ分析【今月のテーマ|長期金利や中央銀行の金融政策が為替レートに与える影響】
今回は為替レートに多大な影響を与える「金利」について考えます。金利には長期と短期があり、10年国債の金利が長期金利の代表、中央銀行が決める政策金利が短期金利の指標になります。金利と為替レートには連動性があるので具体的なチャートで検証しましょう。各国中央銀行の今後の金融政策やテクニカル分析を基に、3大通貨&英ポンドの年末までの目標レートを探ります。
※この記事は、FX攻略.com2017年12月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
佐藤正和さんプロフィール
さとう・まさかず。邦銀を経て、仏系パリバ銀行(現BNPパリバ銀行)入行。インターバンクチーフディーラー、資金部長、シニアマネージャー等を歴任。その後、年間取引高No.1を誇る外為オンライン・シニアアナリストに。通算20年以上、為替の世界に携わっている。ラジオNIKKEI「株式完全実況解説!株チャン↑」、ストックボイス「マーケットワイド・外国為替情報」に出演する他、Yahoo!ファイナンスに相場情報を定期配信中。
ドル円相場は長期金利の代表指標・米国10年国債と密接に連動している
2017年の年末に向けて、為替市場では、
●米連邦準備制度理事会(FRB)が12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を1.5%まで引き上げるか?
●欧州中央銀行(ECB)が量的金融緩和の段階的縮小(テーパリング)に踏み切るか?
●来年4月に任期満了が迫る黒田日銀総裁は世界的な金融引き締めトレンドに逆らって、今後も量的緩和策を続けるか?
●「今後、数か月以内に利上げが必要」という方針のイングランド銀行(BOE)は11月に利上げするか?
といった点に注目が集まっています。そこで今月号では、為替レートに大きな影響を及ぼす金利や中央銀行の金融政策について見ていくことにしましょう。
まず理解しておきたいのは、一口に金利といっても「短期金利」と「長期金利」の二つがあるということです。FXの世界で有名な金利といえば「スワップポイント」ですが、その際、適用される各通貨の金利は翌日物(オーバーナイト)の無担保コール金利といった短期金利に連動しています。短期金利の先導役が、各国中央銀行が決める「政策金利」です。
一方、金利というのは本来、中央銀行が強制的に決めるものではなく、市場で決まるものです。その代表例が国の借金である「国債」の金利。中でも、各国の長期金利の代表的指標になっているのが「10年国債」の利回りです。国債に限らず債券は、額面いくら、満期まで何年、利率は何%という固定された条件で発行されます。しかし、その後は債券市場で売買されて、債券価格が変動することで金利も上下動します。
例えば、額面価格が100ドルで表面利率が2%の米国債が市場で取引され、実勢価格が95ドルに下落した場合、その国債につく金利は「年間の利子2ドル÷95ドル」で年率2.105%に上昇します。反対に米国債の価格が105ドルまで値上がりすると、「年間の利子2ドル÷105ドル」で金利は1.904%に低下します。債券価格が下落すると金利は上がり、債券価格が上昇すると金利は下がるという反比例の関係になっているのです。
チャート①はここ2年間のドル円の為替レートと米国10年国債の金利の動きを比較したものです。パッと見ても、ドル円が米国10年国債の金利とぴったり連動していることが分かります。どちらかというと先に動くのは米国10年国債の金利で、それにつられてドル円が動く傾向になっています。本来は米国債と日本国債の「金利差」を見るべきですが、日本の10年国債の金利は0%前後に張り付いており、実質的には「米国10年国債の利回り=日米の金利差」となっているため、両者に緊密な連動性が生まれているのです。
米国10年国債の利回りは米国の景気回復が遅々として進まないことを受けて、昨年7月には1.4%を割り込む水準まで低下。ドル円も101円台まで下落しました。一転、昨年11月のトランプ大統領選出以降は、その政策である減税や大規模インフラ投資の財源確保のため、米国で今後、大量の国債が発行されるだろう、という思惑が広がりました。国債の供給が増えると将来、米国債の売り圧力になることから、米国債の価格は急落し、逆に金利は急上昇。昨年12月には2.6%台に到達し、ほぼ時を同じくしてドル円も1ドル118円台まで急上昇しました。
今年に入ってからは、オバマケア代替法案が共和党強硬派の反対で否決されるなど、トランプ政権の政策実行能力に対する疑問が噴出し、長期金利は徐々に低下。9月初旬には北朝鮮問題の緊迫化もあって、2%割れ目前まで低下しました。同時にドル円は一時、107円32銭まで下落して、今年の最安値を更新しました。
一般に、国債は不景気になると他に魅力的な投資先がないために買われることが多く価格が上昇、金利は低下します。逆に世の中が好景気になると株やジャンク債、新興国の金融商品など、リスクのある資産が魅力的に映るため、安全ですがリターンの少ない国債は売られて利回りが上昇します。
チャート①の連動性を見ても分かるように、ドル円の値動きを考えるときは米国の10年国債がどう動くか、すなわち米国の景気が良くなるか悪くなるか、より直接的には米国債の需給関係がどうなるかを考える必要があるのです。
EOBの利上げ表明で急騰する英ポンド円の目標上値は160円。年内168円到達も!?
チャート②は、ドル円の週足チャートに一目均衡表と52週移動平均線を表示したものです。ドル円は9月第1週に週足チャート上で雲割れを起こし、昨年11月の米大統領選直後の水準まで下がりかけました。しかし、そこから急回復して、雲上の水準を回復。右肩上がりの52週移動平均線を上抜けできるかどうかが焦点になっています。年末までの上値メドとしては、レジスタンスラインが位置する1ドル114円あたり。下値メドは右肩下がりのサポートラインが位置する1ドル105〜106円台になりそうです。
中央銀行の政策変更が最近、為替レートに大きな変化をもたらしているのは、何といっても英ポンドです。9月中旬にカーニー総裁率いるBOEが「今後数か月以内に利上げが必要になる」という方針を打ち出し、英ポンドは急騰しました。8月のインフレ率は2.9%に到達。賃金上昇率も潜在的に3%台まで上昇している可能性があるというのがBOEの見解で、11月の利上げも視野に入っています。
チャート③は、ポンド円の週足チャートに一目均衡表の雲とMACDを表示したもの。ブレグジット(EU離脱)決定前の2015年6月高値195円80銭台と、ブレグジット後の2016年10月安値124円60銭台の間でフィボナッチリトレースメントを行ってみました。すると、現状のポンド円はようやく38.2%戻しに成功したばかり。同時に、一目均衡表の雲抜けを達成し、MACDは0ラインよりわずかに上でシグナルとゴールデンクロスしています。まさに、上昇トレンドの初動段階といえる値動きで、当面の上値目標はフィボナッチの50%ラインが位置する1ポンド160円20銭台になりそうです。さらに今年の値動きに注目すると、ポンド円はAの四角で囲ったレンジ内で上下動していましたが、その上限をブレイクした形です。このレンジの値幅分さらに上昇した場合は、161円20銭台が上値メドになります。
英ポンドといえば、リーマンショック前は1ポンド200円台も当たり前でした。歴史的に見てもかなり安値圏にあることは確かで、いったん上昇モードが鮮明になると、フィボナッチの61.8%ラインが位置する168円台まで急騰してもおかしくはありません。とにかく、年末に向けて最も目が離せない通貨といえるでしょう。そんな英ポンドに対しても上昇を続け、「2017年最強通貨」といえるのがユーロです。
中央銀行の政策から2017年最強通貨ユーロや高金利通貨・豪ドルの今後を占う
チャート④は、ユーロドルの2014年以降の週足チャートです。一時、1ユーロ1ドルの「パリティ(等価)」割れも懸念されましたが、今年に入ってからは一貫して上昇を続け、9月上旬にはついに1ユーロ1.2ドルの大台を回復しました。チャート④の値動きに沿って、米国FRB、ユーロECBという2大中央銀行が発動した政策を時系列で並べてみました。
FRBは、2012年9月に開始した量的金融緩和第3弾(QE3)を2014年1月に縮小(テーパリング)し始め、同10月にQE3を終了して、量的金融緩和策からいち早く脱出しました。2015年12月には9年ぶりに0.25%の利上げに踏み切り、その後も2016年12月、今年3月、6月に利上げを行い、現在の政策金利は1.25%に達しています。直近の9月には金融緩和で膨らんだ資産の段階的縮小をスタートさせることも決定しました。
一方、ECBは2014年6月に中銀預金金利をマイナス0.1%にするマイナス金利政策を導入。2015年1月には月600億ユーロの債券買い入れプログラムを発表し、米国とは逆に量的金融緩和に乗り出します。2016年3月には債券購入額を800億ユーロに増額するなど緩和策を拡充。その効果が出てインフレ率が上向きに転じると、同12月には今年4月から量的緩和策を縮小することを表明。実際、4月以降は債券購入額が600億ユーロに減額され、現在は新たなテーパリング発動待ちの状況です。
チャート④を見ると、FRBの金融緩和からの脱却、ECBの金融緩和拡大という真逆の動きが鮮明になった2014年から2015年にかけて、ユーロドルは1ユーロ1.35ドル台から1.04ドル台まで急落しています。特に、ECBがマイナス金利を導入した2014年6月以降、急落したことから見て、FRB以上にECBの政策がユーロドルを動かしやすいことが分かります。
昨年12月以降は、ECBがテーパリングを表明したことを受けて、ユーロドルの底打ち反転が鮮明になりました。その間、FRBが3か月ごとに利上げを行い、金利差が拡大しているにもかかわらず、ECBの金融緩和打ち止め期待からユーロドルはじわじわと上昇を続けています。相場の格言に「噂で買って事実で売る」とあるように、FRBの利上げという“事実”以上に、まだ“噂”というか思惑や期待レベルのECBのテーパリングがユーロドルやユーロ円相場に多大な影響を与えているのです。強い通貨に乗るのがFXの極意である以上、年末に向けたFX取引では「ユーロ買い」が最も魅力的な戦略といって良いでしょう。
最後に豪ドル円の動きも見ておきましょう。チャート⑤は、豪ドル円のここ1年の日足チャートにボリンジャーバンドとストキャスティクスを表示したものです。現状の豪ドル円は1豪ドル90円の大台が目前ですが、ストキャスティクスはようやく80%の買われ過ぎ圏に到達したばかりで、ボリンジャーバンドの+2σを突破して、年末に向けて上昇バンドウォーク発生が期待されます。とはいえ、ボリンジャーバンド中央の25日移動平均線はまだ横ばいで、90円台に定着できずもみ合う展開も考えられます。
豪州の中央銀行はオーストラリア準備銀行(RBA)ですが、昨年8月に1.75%から1.5%に政策金利を引き下げて以降、1年以上も1.5%で据え置いています。9月の金融政策決定の際の声明では、「政策スタンスを変更しないことが経済の持続可能な成長やインフレ目標の達成と一致する」という声明を発表。景気の重しになりかねない利上げや豪ドル高を牽制する姿勢が目立っています。そう考えると90円台到達は可能なものの、それを越えてさらに急上昇する可能性はまだ低いといえそうです。
中央銀行といえば、一時は「黒田バズーカ」と呼ばれるなど、日銀の追加緩和策こそが円相場を動かす原動力でした。しかし、世界各国の中央銀行が緩和策から金融引き締め策に転換する中、いまだデフレ脱却に成功していない日銀は神通力を失いつつあります。日銀がある意味、手詰まりな状況に陥っているからこそ、日銀以外の中央銀行の政策転換に注目した投資が今まで以上に大切なのです。
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