これからの外国為替場の行方 第127回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
※この記事は、FX攻略.com2020年11月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
FRBの政策枠組み見直しでバブルの可能性は高まった?
去る7月27日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は毎年恒例のジャクソンホール会議で講演し、今後の新たな金融政策の枠組みについて「平均で2%」のインフレ目標に言及し、景気低迷期にあってはインフレ率が一時的に2%を超えても、暫く容認する方針を明らかにした。
つまり、これまでの想定以上にFRBは低金利状態を長期化させる意向であるということであり、その内容が伝わった後の米株相場は、当然のことながら総じて強含みで推移することとなった。
もっとも、そのような方針が示されるのは大方事前に予想されていたことで、それまでに相場がかなりの部分を織り込んでいたことも事実。すなわち、その時点で一旦は「材料出尽くし」ということになるわけで、実際に同日の米債市場は「セル・ザ・ファクト(事実で売り)」の反応を露わにした。結果、米10年債利回りは0.75%台まで一気に跳ね上がることとなり、一旦はドルが全体に買い戻される展開となった。
とはいえ、相場変動要因の本尊は「FRBの低金利政策がより長期化する可能性」にあるわけであるから、手放しでドル買いの流れに乗るわけにも行かない。米株価と米債金利が強含みで推移しているからと言って、必ずしもドル買いが正解とは言えないところが投資家にとっては悩ましいところではある。
とまれ、少し長い目で見れば今回のFRBによる政策方針の決定と公表によって、米国をはじめとする主要国の経済が将来的にバブルの様相を呈する可能性は一層高まったと言えるだろう。
もとより、コロナ禍によって主要国の中央銀行による資金供給の度合いは、かつて例を見ないほどのジャブジャブ状態となっている。既報のとおり、日米欧中銀の総資産合計は、2020年末に約2400兆円と、前年末比で約1.5倍に膨れ上がる見通しとなっているのだ。
むろん、コロナ禍による物理的な需要の消滅とサプライチェーンの寸断によって生じたマイナスを一時的に補完し、将来的に回復させるために講じられた策であるわけだが、いずれコロナ禍が終息すれば消えた需要とサプライチェーンの大部分は物理的に復活する公算も大きい。
一方で、たとえコロナ禍が終息しても、一旦ジャブジャブに供給した資金を一気に回収しにかかるわけには行かない。その実、FRBも暫くはインフレを容認しながら、徒に金融政策を正常化するようなことはしないと言っているのである。
つまり、仮にバブルの炎が今後メラメラと燃え盛っても、そう易々と当局はバブルの“退治”に踏み出すことはできない。そもそも、仮に多くの識者がバブルの認識を強めたとしても、当局は断じてバブルと認めることはない。それは、過去のバブルの歴史が証明していることでもある。
よろしいですか?