江守哲のリアルトレーディング・ストラテジー 2018年04月09日 08時18分
配信者:ECM
〔EQUITY MARKET〕
【米国株・欧米債券市場の市況解説・分析】
米国株は米中間の貿易摩擦激化への懸念が再び高まり、4日ぶりに急反落した。トランプ大統領は5日に中国からの輸入品に対する1000億ドル規模の新たな追加関税を検討すると表明した。これを受けて、中国商務省は6日に急きょ記者会見を開き、「1000億ドルの課税リストが発表されれば、直ちに強力な反撃に出る」とした。米中の貿易摩擦激化に対する市場の懸念は、前日までにロス商務長官ら複数の高官が回避の可能性を示唆したことから後退していたものの、両国が態度を硬化させたことで懸念が再燃し、リスク回避ムードが広がる中、
米国株は終日売り優勢の展開となった。ダウ平均の下げ幅は一時767ドルまで拡大する場面があった。3月の米雇用統計は、非農業部門の就業者数が前月比10万3000人増と市場予想の19万3000人増を下回った。一方で前月分は上方修正されたことから、全体的な雇用環境はなお堅調と受け止められ、あまり材料視されなかった。非農業部門の就業者数の伸びは17年9月以来、6カ月ぶりの低い伸びとなった。失業率は6カ月連続で4.1%を維持。一方で賃金の伸びは小幅ながら加速し、時間当たり賃金は前月比0.3%増と2月の0.1
%増から拡大し、前年同月比でも前月の2.6%から2.7%に伸びた。一方、トムソン・ロイターの調査によると、S&P500採用企業の18年第1四半期決算は、前年同期比18.4%の増益となる見通し。これまでに500社中23社が第1四半期決算を発表し、利益がアナリスト予想を上回った企業の割合は73.9%。長期平均の64%を上回ったが、過去4四半期の平均の75%は下回った。第1四半期の売上高は前年比で7.3%増加する見通し。18年第1四半期の1株利益について、悪化もしくは市場見通しを下回ると予測している企
業は73社、改善もしくは市場見通しを上回ると予測した企業は60社。S&P500企業の今後4四半期(18年第2~19年第1四半期)の予想PERは16.4倍。4月9日からの週は6社が四半期決算を発表する予定。
トランプ大統領は、「米国は既に貿易戦争に敗北した。いま貿易戦争をしているわけではない」と強調。トランプ大統領はツイッターでも「その戦争にはもう何年も前に、この国の代表だった軽率な、言い換えれば無能な首脳たちが敗れてしまった」と繰り返し、中国の知的財産権侵害を理由とする制裁措置の正当性を訴えている。また、米中の貿易摩擦が深刻化する現状について、「われわれは少し損失を被るかもしれないが、長い目で見ればより強い国になるだろう」としている。さらにウォールストリート・ジャーナルは、トランプ政権が自動車輸入
規制の強化を検討中と報じている。それによると、自国メーカーの保護を目的に、厳格化した環境基準の達成を輸入車に求める方策を検討し、トランプ大統領は既存法を活かした厳しい排出規制案の策定を複数省庁に指示したもようである。ただし、現時点では計画段階にとどまり、米環境保護局(EPA)当局者が政策の法的根拠作りに取り組んでいるという。しかし、政権内の一部から反発の声が上がるなど、実施に向けて課題が存在するとも報じている。
ムニューシン財務長官は、「米中間で貿易戦争になる可能性はある」とし、全面的な衝突の回避に向けて中国との協議に応じる姿勢を示す一方、「トランプ大統領は米国の利害を守る決意だ」と明言し、中国の対応次第で制裁の発動も辞さない構えを強調した。ムニューシン財務長官は、「現段階では米中は貿易戦争の状態ではない」とし、「米中間には米国の貿易赤字削減により、双方が利益を得るとの明確な理解がある」とし、「問題の解決に慎重ながら楽観している」とた。貿易摩擦の緩和に向けて、ハイレベルの協議が行われているかは明言を避け
たものの、「米国は交渉の用意がある」とした。
クドロー国家経済会議(NEC)委員長は、米中貿易摩擦が深刻化する現状について「われわれは経済を混乱させるつもりはない。米中で協議することになるだろう」とし、対中制裁発動回避に向けて両国が話し合う可能性に改めて言及した。これまでトランプ政権が公表した総額1500億ドルの対中制裁関税は「まだ提案段階」と強調している。中国の知的財産侵害を理由とする制裁措置については、3日に「第一弾」の原案が公表された直後に中国が報復関税で応じる構えを見せ、市場の失望売りが一時加速した。そのため、クドロー氏やロス米商務
長官ら米政権幹部は連日のように市場を沈静化させるための火消しに追われている。しかし、トランプ大統領が5日に「第二弾」の検討を指示したことで、世界経済の成長鈍化につながるとの警戒感が再び高まっている。
米国債は利回りが低下。米中通商問題への緊張が高まり、3月の米雇用統計で就業者数の伸びが予想を下回る中、国債が買われた。10年債利回りは2.7750%に低下。2年債利回りも2.2740%に低下した。イールドスプレッドは0.5010%に小幅拡大。長期金利の低下が背景にある。パウエルFRB議長の講演は材料視されなかった。パウエルFRB議長は就任後初めて行った経済見通しに関する講演で、「インフレの制御に向けて利上げ継続が必要となる公算が大きい」との見解を表明。そのうえで「労働市場は完全雇用に近づいている
とみられ、インフレは向こう数カ月間で上向く公算が大きい」との認識を示した。一方で米中の貿易摩擦を念頭に、制裁関税が米経済に及ぼす影響の評価は「時期尚早」としている。また「大型減税などの財政刺激策と緩和的な金融環境が個人消費や企業の設備投資を支えている」と指摘し、失業率が下がり、インフレ率も「今後数カ月」で上昇が顕著になるとの楽観的な見方を示している。その一方で、「緩やかな利上げは、金融引き締めが遅れることによる景気過熱リスクと、性急過ぎることによる腰折れリスクを均衡させる意図がある」と説明した。
一方、今年のFOMCで投票権を持つサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は「FRBは今後2年にわたり、底堅い経済成長と歴史的な低失業率を両立させながら緩やかな利上げを進めることが可能だと自信を持っている」とした。景気拡大を見込み、利上げ継続を支持する考えを明確に示している。ウィリアムズ総裁は失業率が来年までに現在の4.1%から3.5%に低下すると分析し、インフレ率は今後数年間に「FRBの2%の長期目標を幾分上回るとみている」とした。ウィリアムズ総裁は6月に退任するNY連銀のダドリー総裁の後任に就
く見通し。
ユーロ圏金融・債券市場は国債利回りが低下。米中の通商問題を巡る緊張が再燃し、安全資産への買いが膨らんだ。ドイツ10年債利回りは0.497%に低下した。ECBのクーレ専務理事は貿易戦争への懸念について、「株式市場に悪影響を与え、不確実性を生み出し、既に借り入れコストを上昇させている」との見解を示している。また、イタリア中央銀行のパネッタ理事はECBに対して「長期にわたって緩和的な金融政策を続ける必要がある」とし、政策の正常化は慎重に行うべきとしている。
【米国株のトレード戦略】
ロング戦略に変更はない。上昇に向かう可能性が高まりつつある中が再び下げている。まだまだ米中貿易戦争への懸念が市場を席巻しているといえる。ダウ平均は24700ドルを超えるとダウントレンドを抜け出し、さらに25000ドルを超えると、より明確な形で上昇に向かうことになるが、その一歩手前で腰折れとなった。苦しい状況が続くが、最悪の事態は回避されるとみている。ここを売らずに我慢できれば、上昇基調に入ったところで買いを検討することができると考えている。市場が現在の米中貿易戦争という「材料」から、企業業績とい
う「実態」に目を向けることができるかが、きわめて重要なポイントになると考えている。上記のように、PERは16倍台である。すでに割高感は払しょくされている。さらに、業績が拡大すれば、株価上昇が正当化できる。米中貿易戦争で企業業績が悪化するのであれば問題だが、そうなれば一番苦しくなるのはほかでもないトランプ大統領であり、政権である。中間選挙を控える中、表層的な票集めのための政策はいずれ行き詰まる。本質を突き詰めれば、世界貿易の拡大が米国にとって有益であることに気づくだろう。すでに気づいているのだが、
むしろ今の政策は国際金融筋の理屈で動いているように思われる。つまり、これはあくまでシナリオのひとつであり、本質的な材料ではないということである。市場参加者の多くがこのことを理解していないからこそ、株価が急落するのである。それを利用されていることなど想像できないのは仕方がない。しかし、それをわかっているのだから、何も慌てる必要はないということになる。米国と中国はきわめて良好な関係にある。今回発表された措置も、実施までに時間がある。時間の猶予の背景は「米朝首脳会談」である。ここでの結果が出るまで実施
を待つことができるようにしてある。米国でさえも北朝鮮の出方がわからない。だからこそ、いろんな手を使いながら、市場を動かしながら様子を見ている。最初から話し合いの余地を残しながら、このような関税措置を発表しているわけであり、まさに両国の「演出」であり、典型的な「出来レース」である。今年は国際金融筋のシナリオ通りに市場が動いており、あとはいつ彼らが下げの演出を止めるかだけである。4月から5月は外交イベントが続く。これは彼らにとって最高の材料である。これを利用して市場を動かしてくる可能性が高い。その動
きを冷静に見ていくことが肝要である。繰り返すように、4月は買いが入りやすい季節であり、期待感も高い。あとは投資家心理の好転を待つだけである。4月のパフォーマンスは12カ月の中で、上昇率のランキングはダウ平均が1位、S&P500は3位、ナスダック指数は4位である。平均上昇率はそれぞれ1.9%、1.5%、1.4%である。中間選挙の年に限ると、それぞれ0.8%、0.2%、マイナス0.1%とやや軟調なのは気になるが、それでも4月の反発に期待する向きは多いだろう。
繰り返しだが、長期的にはインフレへの懸念あるいは対処がキーワードになるだろう。市場はあまり警戒していないようだが、徐々に金利が上昇に向かうことになるだろう。原油を中心にコモディティ価格が堅調に推移し、これが徐々にCPIに聞いてくる。サプライサイドのインフレ押し上げがいずれ顕著になってくるだろう。あまりよい形とは言えないが、それでも主要中銀が目標とする2%インフレに向かって徐々に進んでいくことになりそうである。こうなると、FRBのブレイナード理事が指摘するように、低金利に慣れ切った市場が金利急騰に
対応できるのかは不明である。金利上昇に驚かないように対処しなければならない。株安となれば、本末転倒である。景気拡大期に金利が上昇するのは当然であり、むしり低金利状態にあることを懸念すべきである。低金利で株価が上昇する時代はすでに終わっている。むしろ、金利停滞は景気のピークアウトを意味する。この点からも、金利が上昇しないことをむしろ懸念すべきである。今後は金利低下=株安の関係になることを頭に入れておくべきであろう。
【ダウ平均株価:2018年の想定レンジ】
強気シナリオ24236ドル~28287ドル(18年末27996ドル)/弱気シナリオ20995ドル~25130ドル(18年末22790ドル)
【ダウ平均株価:4月の想定レンジ】
強気シナリオ25195ドル~26351ドル/弱気シナリオ23476ドル~24904ドル
【S&P500:2018年の想定レンジ】
強気シナリオ2614~3107(18年末3076)/弱気シナリオ2255~2734(18年末2419)
【S&P500:4月の想定レンジ】
強気シナリオ2724~2851/弱気シナリオ2529~2691
【ナスダック指数:2018年の想定レンジ】
強気シナリオ6747~8375(18年末8282)/弱気シナリオ5348~7199(18年末5702)
【ナスダック指数:4月の想定レンジ】
強気シナリオ7068~7472/弱気シナリオ6114~6826
【米国債トレード戦略】
2年債ショート、10年債ロングのイールドカーブのフラット化に賭ける戦略を継続する。
【日本株の市況解説・分析】
6日の日経平均は前日比77円となり、3日ぶりに反落した。トランプ大統領が中国に対する追加制裁関税の検討を指示したことで、米中貿易摩擦が激化するとの懸念が再燃した。65%の銘柄が値下がりし、値上がりは32%だった。前日の米国株が上昇していたことで、上昇が期待されたが、寄り前にトランプ大統領が中国に対する追加制裁関税を検討する方針を示したことで売りが出た。米国株の指数先物が急落したことも売りを誘った。しかし、大幅安になることもなく、日経平均は下値を固めつつあるといえる。また、追加制裁の規模が1000
億ドルと高額だったことから、非現実的と受け止められた面もある。さらに、市場は今回の制裁関税に関する米中のやり取りに慣れてきた面にあるだろう。そのため、今後はトランプ大統領の「口撃」に対する感応度が徐々に低下する可能性もある。
【日経平均先物のトレード戦略】
ロング戦略を継続。シカゴ市場では急落し、21500円を割り込んでいる。目先は21300円で下げ止まるかをみておきたいが、より大局的に見れば、21000円が重要である。繰り返すように、とにかく22500円を明確に超えない限り、次の動きには向かえない。株価は目先の底を打った可能性が高いと考えているが、市場が米中貿易戦争の深刻化を懸念しているうちは、株価は上げづらい。海外勢もいまだに売っている。ドル円が意外に下げ渋っている点は、日本株には支えになるだろう。現時点で今期のバリュエーションを算出するのは難
しいことが、投資家が買い手控える理由になっている。大企業の採算レートが109.66円では、増益は期待しづらいのも仕方がない。それでも、105円を割り込まなければ、減益は回避されると考えている。いまは外部要因で不透明感が高いが、今の割安感を利用して、少しでも収益を確保することを考えたい。
これまでの押し目買いと戻り売りで、ロングは21750円、21600円、21500円が残っているイメージである。今後は、残りのロングを22050円、22250円、22450円までの戻り局面で売り切りたいと考えている。まだまだ弱い動きから脱することができていないため、いまは欲張らずに押し目を買う一方で高値まで待たずに売り、利益を確定することを優先したい。今後は21250円、21000円までの押し目があれば、再度ロングを積み増したい。22500円を超えてしまえば、その流れに乗ってロングを積み増していけ
ばよいだろう。4月の強気シナリオのレンジは23256円~25002円、弱気シナリオのレンジは21737円~23316円である。強気トレンドに戻すには、少なくとも23250円程度までの戻りが必要となる。これはかなりハードルが高い。まずは弱気シナリオのレンジ下限である21737円を回復し、そのうえで23250円を目指す動きになるかを見ていきたい。21737円を下回る水準は相当売られすぎであるといえる。
政治要因はまた新しい情報が入れば、その時点でアップデートしたい。
日経平均はこれまでの上昇で23000円を明確に超えたことで、