これからの外国為替場の行方 第121回[田嶋智太郎]
田嶋智太郎(たじま・ともたろう)さんプロフィール
経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
ドル円が比較的底堅いのは「日本売り」の結果との声も
既知のとおり、2月19日以降にドル円が一時的にも112円台まで急上昇する場面というのを目の当たりにした。当時の市場の受け止めは、米国で発表された複数の経済指標が強めの結果を示したことに加えて、中国政府による景気対策の発動期待が市場で盛り上がったことが主要因ということであった。
見逃せないのは「加えて、日本のリセッションへの懸念が円安を呼び込んでいるとの見方もある」とされたことである。前回更新分の本欄では「今後も円が『安全通貨』と見做されることに疑問符が付き始めている」などと述べたが、実際、執筆時の市場からは「ドル円の上昇は『日本売り』の結果」との声も聞かれ始めている。
新型肺炎ウイルスの感染者数が中国に次いで多い日本の通貨「円」を、これからも安全通貨と見做し続けることは難しくなってきていると言われれば、それも道理と考えざるを得ないところはあると言えよう。
結局、ドル円が112円台で推移したのは一時的なものとなった(執筆時点)が、後に再び110円前後の水準まで売り戻されたのは、主にドル安の結果であった。東京市場が天皇誕生日の振替休日で休場となった2月24日の米国株市場では、NYダウ平均が1000ドル超の値下がりとなり、そこから一気にドル売りの流れは加速した。翌25日も879ドルの下げとなり、2日間の下落率は過去最大を記録した。
これは、何より新型肺炎ウイルスの感染者がイタリアや韓国などで急増しているとのニュースが、週初から市場を震撼させたことが大きい。ことに欧州、イタリアでの感染拡大という報せは、今回の事態がパンデミック(世界的な大流行)に発展してしまう可能性を想起させるに十分なインパクトであり、結果、市場の警戒ムードは一気に色濃くなった。
それまで「海の向こうの遠い国(中国や日本)での話」と解されていたウイルス感染拡大の影響が、米国でも「もはや対岸の火事ではない」と考えられ始めたわけである。ほどなく、米疾病対策センター(CDC)が「世界的なパンデミックに近づいている」との懸念を示したことも、市場全体の警戒感を高めるのに十分なインパクトとなった。
そもそも米国株安のきっかけはイタリアでの感染者急増であり、それを受けて欧州の株価指数も軒並み大幅下げとなった。それにも拘らず外国為替市場では対ユーロでドルが売られたわけである。これは、紛れもなくドル売りであって、ドル円の下げに関しても「リスク回避の円買い」といった感じでは必ずしもない。
ちなみに、イタリアには「メイド・イン・イタリア(主に衣料品)」を求める中国人が以前から頻繁に出入りしていたという特殊事情があることも事実。そうしたことを背景にイタリアは昨年、中国と「一帯一路」で協力する覚書も交わしたほどであり、ここにきて両国は親密な関係を築きはじめていた。
ただ、そんなイタリアに渡航歴のあるオーストリアやクロアチア、スイスなど、周縁国でのウイルス感染者も確認されてきており、もはや「必ずしもイタリアだけの特殊事情と高をくくっているわけには行かなくなってきた」という事実は深刻に受け止めねばなるまい。
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