【無料全文公開】現役為替ディーラーが何でも答えます!みんなのQ&A[トレイダーズ証券みんなのFX 井口喜雄](FX攻略.com2017年9月号)
疑問をぶつける相手はいないし、調べてもよく分からない…。そんな悩みがあったら、この企画にお任せください。トレイダーズ証券の井口さんが、あなたの質問を解決します!
井口喜雄さんプロフィール
いぐち・よしお。トレイダーズ証券市場部ディーリング課。認定テクニカルアナリスト。1998年より金融機関に従事し、主に貴金属や石油製品のコモディティ市場を中心としたカバーディーリング業務に携わる。2009年からみんなのFXに在籍し、「米ドル/円」や欧州主要通貨を主戦場にディーリング業務を行う。ファンダメンタルズから見た為替分析に精通している他、テクニカルを利用した短期予測にも定評がある。最近では、みんなのFXの無料オンラインセミナーにも登場し分かりやすい講義内容が好評を得ている。さらにTwitterでは、プロディーラーが相場についてリアルな意見を発信しているので要チェック。
Twitter:https://twitter.com/yoshi_igu
※この記事は、FX攻略.com2017年9月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
Q10.経済心理学(行動経済学)って良く聞きますけど、市場とどんな関係があるんですか? (宮崎県/40代/男性)
A.大衆心理と為替相場の値動きは密接な関係にあります
相場は大衆心理の総意で形成される
読者の皆さまの中には、経済心理学もしくは行動経済学という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。少し難しそうに聞こえる言葉ですが、すごく簡単にいってしまえば“マーケットは感情で動く”ということです。
行動経済学は近年確立された経済学で、「人間は間違いを犯すものである」を前提にその行動要因を分析する新しい分野です。金融市場においても行動経済学は次第に応用されるようになり、特に為替相場は数ある市場の中でも大衆心理が反映されやすいため、行動経済学にとっては格好の研究対象となっているのです。
例えばテクニカル指標も行動経済学を前提にしているものがあります。「人間は直近の情報を基準にする」という性質はアンカリングと呼ばれ、これを織り込んだテクニカル指標としてEMA(指数平滑移動平均線)やWMA(加重移動平均線)が挙げられます。
また、ファンダメンタルズ分析でも、ブレグジットの際に相場関係者が過去の選挙結果や事前調査を信じ切ってポジションを作った背景には、アンカリングが働いていたと考えることができます。さて、今回は行動経済学の代表的な二つの概念「プロスペクト理論」と「同調性バイアス」を紹介していきます。
プロスペクト理論
まずは以下の2種類の状況を想定してください。
■状況①
A「数日後、1/2の確率で1億円獲得できるが、1/2の確率で何も獲得できない」
B「今、5000万円獲得できる」
ABどちらかを選択する状況
■状況②
A「数日後、1/2の確率で1億円支払うが、1/2の確率で何も支払わない」
B「今、5000万円支払う」
ABどちらかを選択する状況
上記の選択肢は期待値計算においては同等の損益ですが、多くの方は①の選択肢では後者を選び、②の選択肢では前者の選択肢を選んでしまいます。トレーダーは利益があるとその利益が手に入らないというリスクの回避を優先します。一方、損失があると損失そのものを回避しようとしてしまいます。つまり、人の心には儲けたいという欲望以上に損したくないという本能があるということです。
この人間の本能というべき損に対するリスクテイクを解消するには、“ルール”を徹底することしかありません。これは個人投資家のみならず、プロのディーラーでも会社の規定として一定以上の損失を抱えてはならないというルールが決まっているほど重要です。私は仕事柄、これまで数千人以上の投資家の取引手法を見てきました。負ける投資家には共通点があります。それは“損切りできない”ことです。FXで最も重要なことは生き残ること(取引を継続すること)です。そして生き残るには損切りが必須なのです。
100万円の利益を得る喜びの度合いよりも100万円の損失を被る悲しみの度合いの方が大きく感じる。
同調性バイアス
この同調性バイアスの概念ですが、人間は周囲と同じ行動を無意識に取ってしまうという性質を提唱しています。例えば、自分が強い意志で買いだと思っていても、プロが書いているレポートを読んでいて多くの専門家が売りだといっていた場合、無意識のうちに売りバイアス(先入観)がかかってしまいます。これは我々ディーラーでも同じことがいえるのですが、上司が「ドル円は完全に下抜けした」などといっている場合には、自分が上がると思ってもなかなか行動に移せなくなるものです。
この同調性バイアスがマーケットのポジションを同一方向へ傾かせてしまうことがよくあるのです。そして、多くのプレイヤーが同じ方向にポジションを取り始めた時点でマーケットは大体その逆方向に進んでいくという性質があります。「赤信号みんなで渡れば怖くない」という言葉がありますが、為替の世界においては多くの人と同じようなポジションを構築してしまうこの同調性バイアスは非常に危険なのです。
世界一の投資家といわれるジョージ・ソロスの有名な言葉に「大衆は常に間違っている」というのがあります。これは皆と同じことをしていては相場での成功はないとの意味で、まさに相場の核心をついたような言葉です。また、ウォール街には「人が売るときに買い、人が買うときには売れ」という教えもあります。私が知っている優秀なディーラーも他人の意見を参考にはしますが、良い意味で他人の意見を気にはしないことが多いです。対処法は常に自分以外の参加者のポジションを気にしておくことです。同調性バイアスに気付き、偏ったポジションが確認できた場合は、このバイアスを逆手にとって逆のポジションを取ることも悪くはない戦略です。
経済心理学を味方につけよう
心理学とか理論というと何だか難しく感じてしまいますが、FXの取引経験者であれば今回の話に共感できる部分は多かったのではないかと思います。なぜならばFXは心理戦であり、参加者が生身の人間である以上、感情などの心理状態によってマーケットが変化していくからです。参加者の心理状態を考えることによって、マーケットの動きをつかもうとする経済心理学はトレーダーにとって大きな武器となるのではないでしょうか。
常に参加者のポジションを気にしておこう(みんなのFX売買比率)
Is it OK?