CF計算書で見る企業の経営状態&改めてDebtの有用性を確認し、資金調達の巧拙を考える 柳下裕紀氏
配信日:2020/09/17 10:47
こんにちは。既にSNSやブログで告知していますが、
来月(10月)17日と31日の2回に渡り、基礎編・上級編としてバリュエーション作成のセミナーを開催します。
https://ameblo.jp/yukiyagi7/entry-12624899574.html
御都合宜しければ是非、御参加下さい。
今年は、トライアルでTOC(制約理論)の勉強会もやりたいなあと思っているんですが、
興味ある人もそれほどは居ないかも知れないし(笑)・・・、
トライアルとはいえ、ちゃんと内容も考えないといけないし・・・、
あんまり大々的ではなく、コソッと(笑)やってみようかなあと思ったりしてます。
それにしても、今年はとにかく、とにかく、あまりに忙し過ぎて、
スケジュールがパツンパツンで余裕が無いのが辛い所です。
結局あれもこれもと考えていたセミナーの半分位しか着手出来そうになく、
もし楽しみにして下さっていたら申し訳ないです。
さて、前回のサロン講義後に、借金に関する質問がありました。
そこでまず、少し古いデータですが、
上場会社2971社のキャッシュフロー計算書を8パターンに分類した表を添付します。
事業ステージによる4パターンというのは、拙著(真のバリュー投資徹底講義)にも載せていますが、
ココで見るのは、もう少し企業の戦略スタンスによる違いをパターン化したものです。
①~③が営業CFがプラスのパターン。
パターン①は営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナスで、企業数の半数以上ですが、
営業活動によってキャッシュが増加し、投資活動にはキャッシュを使っているので、
「収益力があり、将来投資にも積極的、負債の返済を進めていて財務体質も健全」な“優良型"
といえます。
パターン②は「収益力があり、①よりも積極的な投資のために資金調達を行っている」
“積極投資型"と言えますね。
パターン③は「収益力はあるが、投資は控え、資産売却などによって財務体質改善を進めている」
と見えるので“再構築型"です。
一方、④~⑥は営業CFがマイナスです。つまり、本業は不振状態です。
パターン④は事業の不振を打開すべく、資金調達をして設備投資にまわす“リスクテイク型"、
パターン⑤は事業不振を打開すべく投資するための資金を資産売却などで捻出する“構造改革または事業撤退型"
ですね。
パターン⑥は事業も不振で資金流出が続いて投資も出来ず、資金調達も出来ない、
“八方ふさがり状態"と言えるかもしれません。
パターン⑦は⑥と同じような状態にも拘らず、資金調達をしている、出来ているということで、
これは調達先の将来への期待値が高いのか、或いは見誤っているのか?
パターン⑧は特殊型ですね。本業で稼いで収益力があるのに投資せず、しかし資金調達はしている、
将来のために布石を打っている最中か、或いは・・・
これらはあくまでも形式的な類型化であり、例外はもちろんあります。
あくまで分析対象企業が、キャッシュフローという視点でどのような特徴があるか、
を把握するための1つの道標です。
さて、上述した質問ですが、カチタス(8919)の資金調達についての部分です。
添付のとおり、同社はコミットメントラインを活用しています。
コミットメントラインは、企業と銀行との間で、あらかじめ限度額(極度)を設定し、
そこまでは自由に借りたり返したり出来る融資ですね。
同じような契約に当座貸越というのもありますが、こちらは担保付きです。
コミットメントラインは担保を提供する代わりに、
契約の際に高額な手数料(コミットメントフィー)を取ります。
コミットメントラインを活用すれば、余分な手許現金が不要になり、
その分有利子負債を返済すればB/Sのスリム化に繋がり、
自己資本を上げたり、金利負担の軽減も出来ます。
一方で、定期的に資金を必要としないような企業の場合は、
コミットメントフィーは融資枠を使用しなくてもかかりますから、
結果的にコスト高になる可能性もあります。
カチタスは当然ですが常に物件を仕入れており、需要に追い付かない状態で、
今後取扱件数を倍に増やしていこうとしています。
その分リフォームの為の住設機器や資材の調達など、資金需要は拡大していきます。
ですから、常に柔軟にスピーディに調達出来る体制にしておく必要があるのです。
質問者さんが聞かれたのは一括返済のことですが、
基本的にはDCFで控除される有利子負債の額は現在の残債分全てですから、
一括であろうが分割であろうが同じで、毎年の企業価値の変動には一切関与しません。
借入金の返済は費用ではないので、PLにも計上されませんよね。負債の減少で、BSが変わるだけです。
利息の支払いだけが営業外費用として計上されています。
実際の借り入れ返済が反映されるのは、CF計算書の財務CFですね。
ちなみに、カチタスは基本的に一括返済分をリファイナンスしていくことで、
借り入れと返済を上手く調整しながら組み替えていますので、この辺も特に気にする必要はありません。
さらに言えば、このコミットメントラインは複数の金融機関が組んだシンジケートローン(協調融資)形式にしているので、銀行側もリスクを分担して貸出を行っております。
以前から私が言っていることに、日本の企業は無借金を有難がり過ぎて、機会コストを放置している、という点がありますが、
有利子負債が一切ない無借金企業以外にも、有利子負債よりも多い現金預金を抱えている実質無借金企業と言うのも、日本では多く見られます。
もちろん企業経営にはある一定の運転資金を常に手元においておくことが必要です。
また、リーマンショックや大災害に備えて手元に資金を置いておくこと、特に今回のコロナショックでは、
「手厚い内部留保など日本の経営モデルが再評価」などという主張が独り歩きしている感がありますが、
いやいや、ちょっと待て。
晴天の日に、台風、洪水、落雷、地震、火災、ウイルスに対する完全防備をして外出をするのが合理的ですか?機会損失をドンドン積み上げて体質が脆弱になっている企業が、いきなりこうしたショックに出くわす方が、余程リスクが高いのは自明でしょう。
状況の変化に対応して適時に意思決定し、実行する組織や、経営者のマインドセットの方が重要なのは当然です。
他にも、M&Aを視野に入れている会社は、よい売り手が現れた時の買収資金を確保しておくことが必要ですが、
それを口実に手元資金を積み上げることが目的化し、将来成長のための投資が後回しにされているかもしれません。
実際、「よい案件が出たらすぐにM&Aが出来るように手元資金を確保しております」と何年も言い続け、
その間に大型M&Aは一件も実施していない会社もあります。
借金というコストの低い調達手段のレバレッジを経営に於いて上手く活用する事が非常に重要、という事ですが、一方で、負債がない場合、株主の直面するリスクは、事業リスクのみなので、負債が加わる(レバレッジをかける)ことで、FCFのバラツキは増すことになる、事業リスクに加えて、財務リスクを負担することで、要するに、良い時は凄く良いが、悪い時は凄く悪い、ということになるのです。
なので、業績変動が比較的小さい企業の場合は、資本レバレッジを利かせることによって、株主のリスク・リターンを向上させることが合理的であり、その逆に、業績変動の比較的大きな企業の場合は、資本レバレッジを抑え、株主のリスク・リターンを過大にしないような適正資本バランスが必要、と皆さんに伝えてきましたね。
ここで考えるべきは、今回のコロナパンデミックでも確認出来た通り、サービス業は、急激な需要減少に弱いということです。そして、需要回復のスピードも確実に遅いのです。
コロナが終息して世の中の需要が元に戻った時、実物経済ならば、需要もV字回復しますが、低迷期が終わっても、サービス業の需要はV字回復しません。サービスには「同時性」(リアルタイム性)という特性があり、占有時間に応じて、料金ををチャージするため、「在庫できない」と言えるからです。
こうした事業特性がある分野では、レバレッジを掛け過ぎることはリスクが高いのです。
資金調達の巧拙こそ経営の巧拙を判断する要、ということが理解できたでしょうか?
では、本日はこの辺で。
よろしいですか?