【2020年12月3日】S&P500が史上最高値を更新 【江守哲 リアルトレーディング・ストラテジー】
米国株は経済対策の協議進展への期待が高まり続伸。S&P500が終値での最高値を更新した。米民間雇用サービス会社ADPが発表した11月の全米雇用報告では、非農業部門の民間就業者数が前月比30万7000人増と、市場予想を下回った。一方、英当局は米ファイザーなどが開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を承認したと発表。労働市場の回復鈍化への懸念とワクチン実用化への期待が交錯する中、ダウ平均は売りが先行して取引が始まった。下げ幅は一時200ドルを超えた。ただし、NY州のクオモ知事は、ファイザーのワクチンの安全性や効果が認められれば、15日までに17万人分を受け取ると発表した。
米議会では、民主党のペロシ下院議長とムニューシン財務長官が、大統領選後初めて経済対策について電話会談した。経済の正常化や経済対策の早期策定への期待が高まり、買い戻す動きが拡大し、ダウ平均はプラスに転じた。パウエルFRB議長が議会証言で、新型コロナ危機を乗り越えたと自信が持てるまで、金融緩和を継続するとしたことも市場の安心感につながった。FRBが公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)では、12地区中4地区で経済成長が「ほとんど、もしくは全く見られなかった」との認識が示された。
航空や金融、エネルギー、レジャーなど景気変動や経済正常化の影響が大きい業種が上昇。アメリカン航空グループは4.1%高、ユナイテッド航空が3.1%高、
ウェルズ・ファーゴが2.8%高、カーニバルが5.0%高、エクソンモービルが3.8%高、ボーイングが5.1%高だった。ファイザーは3.5%高。1日にスラック・テクノロジーズの買収を発表したセールスフォース・ドットコムは8.
5%安。スラックも2.6%下落した。S&P500主要セクターでは金融やエネルギーが上昇する一方、主要消費財は下落。バリュー株への循環が続いた。
米民間雇用サービス会社ADPが発表した11月の全米雇用報告によると、非農業部門の民間就業者数は前月比30万7000人増となり、市場予想の41万人増を下回った。10月分は40万4000人増(従来は36万5000人増)に上方改定された。ADPの幹部は「雇用の伸びは引き続き鈍化している」と指摘した。部門別では、物品生産部門が3万1000人増。このうち、資源・鉱業は1000人増、建設が2万2000人増、製造業が8000人増だった。
サービス部門は27万6000人増だった。うち流通・輸送・公益が3万1000人増、情報が増減なし、金融が8000人増、専門職・ビジネスサービスは5万5000人増、教育・医療は6万9000人増、レジャーが9万5000人増だった。規模別では、大企業が5万8000人増、中堅企業が13万9000人増、中小企業が11万人増だった。
全米小売業協会(NRF)は2日までに、感謝祭祝日の11月26日から30日までの5日間で、1億8640万人が買い物をしたとの調査結果を発表した。過去最多だった19年の同期(1億8960万人)を下回ったが、インターネット通販が好調で1.7%減にとどまった。18年の同期は1億6580万人。感謝祭翌日のいわゆる「ブラック・フライデー」にネット通販で買い物をした人は前年比8%、翌28日は17%のそれぞれ増加を記録。30日までの5日間にネット通販のみで買い物をした人は9570万人と、前年同期比44%の急増となった。
一方、新型コロナウイルス感染拡大などの影響を受け、感謝祭の実店舗での買い物客数は前年比55%の大幅減。ブラック・フライデーは37%の落ち込みを示した。5日間の支出額は1人平均311.75ドルと、前年同期の361.90ドルを下回った。購入商品は衣類が最多の52%で、おもちゃの32%などが続いた。
米抵当銀行協会(MBA)が発表した週間の住宅ローン申請は、前週比0.6%減だった。
FRBは全米12地区の連銀景況報告(ベージュブック)を公表し、「大半の地区の景気は控えめから緩やかに拡大した」と判断した。ただし、新型コロナウイルス感染再拡大で、一部で経済活動が鈍化し、企業の先行きに対する楽観姿勢が後退したと警戒感を示した。報告は、総じて景気回復の継続を確認する一方、4地区の経済活動は低調で、5地区ではコロナ危機前の水準を下回ったと指摘。フィラデルフィア連銀は感染再拡大により「11月初めに下向きになった」と報告し、セントルイス連銀管内など中西部の3地区も減速が始まったと分析した。
製造業や物流、住宅などで持ち直しが目立った。銀行は商業や娯楽産業向け融資が劣化し、来年は返済延滞が増えると回答した。コロナに加え、経済対策成立の見通しが立たないため、企業に慎重な見方が強まっているとの見方を示した。雇用は拡大したが、ペースは鈍化した。賃金は控えめな伸びとなり、物価はわずかから控えめに上昇したと報告された。
報告は11月20日までに集められた情報に基づき作成。15・16日に開かれる今年最後のFOMCの討議資料となる。
バイデン次期米大統領は新政権の外交政策について、トランプ政権が中国と締結した米中通商合意第1弾の破棄に直ちに動くことはなく、中国製品に対する制裁関税を撤廃する措置をすぐに取り下げることも考えていないとした。自身にとって最優先事項は、大統領就任前であっても、大規模な景気対策を議会で通過させることだとした。今年初めに米中が署名した第1弾の通商合意で、中国は20年と21年に米国の製品やサービスの購入を少なくとも2000億ドル拡大することで合意。2500億ドル相当の中国製品に対する米国の25%の制裁関税と、中国の1000億ドル相当の米国製品に対する制裁関税は維持された。
バイデン氏は、「米国には中国との交渉で利用するレバレッジ(影響力)が必要」とし、「すぐに動くつもりはない。関税もそうだ。自分の選択肢に先入観をもたないつもりだ」として、「私の考えでは、レバレッジをまだ持っていない」と付け加えた。バイデン政権では、知的財産の盗用やダンピング、企業に対する不正な補助金支給、米企業から中国企業への技術移転の強要など、中国の「不適切な慣行」に対応する政策を進める方針を示した。
同時に「超党派でコンセンサスを形成し、政府主導で研究開発やインフラ、教育への投資を増やし、中国とよりうまく競合する必要がある」と強調し、「第一に米国に投資し、懸命に戦う」意向を示した。その上で、最善の対中国戦略は、同盟国と連携することだとの考えを示した。イランについては、イランが「核合意の厳格な順守」に回帰すれば制裁を解除するとの見解を維持した。イランのザリフ外相は先月、バイデン政権が制裁を解除すれば、イランは15年の核合意を完全に履行する方針を表明した。一方、バイデン氏は「同盟国やパートナーと協議し、イランの核関連活動抑制の強化・長期化、同国のミサイルプラグラムに対応する追加合意や交渉に関与していく」とした。
ムニューシン米財務長官とパウエルFRB議長は2日、下院金融サービス委員会の公聴会で証言し、広範な景気回復を根付かせるために、新型コロナウイルスワクチンの幅広い接種が可能となるまで中小企業が向こう数カ月を切り抜けることができるよう、追加支援策で合意するよう改めて訴えた。パウエル氏は「冬を乗り越えるために、経済への追加財政支援は非常に有益かつ重要だ」と強調。「予想よりも早期にかなりのポジティブな進展があったものの、新型コロナ感染者は急増しており、経済活動を圧迫する可能性がある」との認識を示した。
ムニューシン氏も「とりわけ今後数週間に物事を成し遂げるよう議会に促す」と呼び掛けた。この日の証言は、前日行われた上院銀行委員会公聴会での証言内容をほぼ踏襲した。証言に先立ち、ムニューシン氏は、トランプ大統領が共和党のマコネル上院院内総務が前日提示した新型コロナ経済対策法案に署名する構えと明らかにした。
ただし、新型コロナウイルス追加対策について、米議会の共和・民主両党は依然として合意に至ることができていない。共和党指導部が提示した新型コロナ経済対策法案に対し、上院の民主党指導部は「不十分かつ党派的な提案」として退けた。議会の超党派グループは1日、9080億ドル規模のコロナ救済法案を発表したが、共和党のマコネル上院院内総務がこれを拒否。マコネル氏はその後、ホワイトハウス高官らと意見を交わし、トランプ大統領が受け入れる法案の概要を上院共和党議員に回覧した。ムニューシン氏によると、トランプ大統領はマコネル氏の新型コロナ経済対策法案に署名する構えという。
上院共和党筋によると、マコネル氏の提案は先に民主党側に拒否された5000億ドル規模の対策案に近い内容で、中小企業向けの新規融資および助成金として3327億ドルが盛り込まれているという。民主党のシューマー上院院内総務は、マコネル氏が民主党の支持を取り付けようとしておらず、同法案が下院を通過する可能性に懐疑的な見方を表明。「マコネル氏は不十分かつ党派的な提案で上院の時間を無駄にしてはならない。米国のニーズを迅速に満たすための党派を超えた真の取り組み着手に向け民主党との話し合いを持つ必要がある」とした。
新型コロナ追加対策に加え、議会は連邦政府機関の閉鎖を回避するため12月11日までに歳出法案(予算案)を可決する必要に迫られている。民主党のホイヤー下院院内幹事は記者団に対し、上下両院の指導部が今週末までに予算案とともに新型コロナ救済法案で合意に達することを期待しているとした上で、救済法案には共和党が反対している州や地方自治体への支援が含まれるべきとした。
NY連銀のウィリアムズ総裁は2日、米経済は最近までは予想よりも力強く回復していたものの、全国的に新型コロナウイルス感染拡大の歯止めがかからない中、「多くの家計の支えになってきた政府の財政支援策が期限を迎え、経済成長は鈍化しつつある」との認識を示した。また、「米国はなお深刻なりセッションから脱却できていない」とし、新型ウイルス感染拡大第2波のほか、政府の財政支援策の縮小もしくは期限切れの影響がどの程度大きいのか、見極める必要があるとの考えを示した。来年の経済情勢については、「新型ウイルスワクチンが広範に普及する時期次第になる」とした。
フィラデルフィア連銀のハーカー総裁は2日、米経済は「年内と21年1-3月期は緩やかに成長するが、新型コロナウイルス感染拡大前の水準以下にとどまる」と予想した。ムニューシン氏が年内で終了を表明したFRBの一部緊急融資制度は存続が必要だと主張した。また、「経済成長は21年後半と22年を通じて持ち直し、23年に幾分ペースが減速する」と予測。見通しの前提として、21年春から来夏に複数のコロナワクチン普及し、1兆ドル規模の追加コロナ経済対策が実施されることを挙げた。
一方、FRBがコロナ危機を受けて設置した企業、州・地方政府向け緊急融資制度などをムニューシン氏が年内で終了すると判断したことに「制度は年末を超えて機能し続けるべきだ」と指摘。景気の先行きに不確実性が残る中で、「現時点では緊急融資制度に変更を加えないことが最善だ」と述べ、制度終了に反対した。一方、コロナ危機で失われた、在宅勤務で代替できない多くの職種は「最も自動化が進む」との分析を紹介。食肉加工といった仕事は今後、自動化が進む可能性があるとの見方を示した。
その上で「コロナで失われた雇用の多くは戻ってこない恐れがあるとの研究結果が明らかになっている」と警告。「技術の進展は止めることができないが、自動化の波はコロナで職をなくした労働者がどのようにして新しい、安定した仕事に就くことができるのかを、各自が真剣に考えることを突き付けている」と語った。ハーカー総裁は今年のFOMCの投票メンバー。
米2年債利回り:0.162%(-0.0117)
米5年債利回り:0.416%(-0.0108)
米10年債利回り:0.941%(+0.0069)
米30年債利回り:1.694%(+0.0184)
米2-10年債利回りスプレッド:-0.779%(-0.0189)
米10年債先物:137.844(±0)<±0%>
米ハイイールド債(HYG):86.44(+0.24)<+0.28%>
米10年物TIPS利回り債:-0.931(-0.03)<+3.44%>
MOVE指数:43.92(+2.39)<+5.75%>
米国債は利回りが上昇。英政府が2日、新型コロナウイルスのワクチン使用を承認したことが材料視された。ワクチンの実用化が経済活動の正常化を後押しするとの見方が強まり、長期債が売られている。また米国の追加経済対策を巡る与野党協議の進展期待も、安全資産とされる米国債の売りにつながった。
【米国株のトレード戦略】
米国株は高値圏を維持しているものの、上値の重さが感じられる。ワクチンの報道に飛びついて買った向きはすでに買い終わっており、追加的な買いが入りづらい状況になっているようである。追加資金がなければ、株価は上がらない。一度調整しないと買いは入ってこないのだろう。下記でも繰り返しているように、長期的なポートフォリオ戦略では、安いところで買うのが基本である。押し目を待って買わなければ、コストが下がらない。つまり、ポジションを取るエントリーポイントが重要であるということである。
短期のトレード戦略では、上昇相場を買い、下落相場を売る。そして、……
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