人工知能と相場とコンピューターと|第14回 現在のAI、金融、そして今後[奥村尚]
奥村尚さんプロフィール
おくむら・ひさし。1987年工学部修士課程修了。テーマはAI(人工知能)。日興証券で数々の数理モデルを開発。スタンフォード大学教授ウィリアム・シャープ博士(1990年ノーベル経済学賞受賞)と投資モデル共同開発、東証株価のネット配信(世界初)。さらにイスラエルのモサド科学顧問とベンチャー企業を設立、AI技術を商用化し大手空港に導入するなど、金融とITの交点で実績多数。現在はアナリストレーティングをAI評価するモデル「MRA」、近将来のFXレートをAI推計する「FXeye」、リスクとリターンを表示するチャート分析「トワイライトゾーン」を提供。日本の金融リテラシーを高めるため、金融リテラシー塾を主催している。
趣味はオーディオと運動。エアロビック競技を15年前から始め、NACマスター部門シングル9連覇、2016年シニア2位、2014~2016年日本選手権千葉県代表、2017~2018年日本選手権 マスター3準優勝。スポーツ万能と発言するも実は「かなずち」であり、球技も苦手である。座右の銘は「どんな意思決定でも遅すぎることはない」。
ブログ:https://okumura-toushi.com/
※この記事は、FX攻略.com2021年5月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
機械学習と深層学習の違いとは何か?
今までの連載では、AIの技術的な歴史や成果を、コンピュータや相場の同時代のトピックと合わせてその誕生から見てきました。今回は、現時点でAIがどこまで実用化しているか、金融業界を中心に見ていきます。
現代のAIの特徴は、「ビッグデータを収集し、それを機械学習する」というものでしょう。どちらも20世紀からあったものです。
機械学習は、深層学習(ディープラーニング)と区別なく使われることが多いのですが、領域が異なるものです。機械学習とは、機械、つまりコンピュータが広くデータから学ぶことを意味します。最も一般的な教師つき学習では、教師が正解や不正解を与えて教えます。公文式塾のように、ひたすら繰り返すことで効果を高めるのです。何を学ぶかはあらかじめ決められています。
一方の深層学習は、教師つき機械学習の一分野です。人の神経細胞を模倣したニューロンの処理をすることで、複雑な人間の行動をいくつかの層で処理し、その層の重みを調整して回答を導き、その回答を教師の正解データと比較することで学習を進めます。この層が多層になっているので、「deep」という単語が使われるのですが、いわゆる深層心理(unconscious mind、心の奥)の「深層」とは異なる意味です。この技術は2012年に開催された画像認識大会(ILSVRC、スタンフォード大などが運営)で、トロント大学が多層ニューラルネットワークを用いた学習で圧倒的な成果を出して広く知られるようになりました。
※論文をもとにTrioAM作成
https://papers.nips.cc/paper/2012/file/c399862d3b9d6b76c8436e924a68c45b-Paper.pdf
1000種類120万枚の学習用画像データを使って10万枚の画像を正しく分類するなどが課題でしたが、他を圧倒する精度で優勝したからです。その後の研究に決定的な影響を与え、2020年時点でこの論文は5万5000もの引用がありました。深層学習の世界的なブームが始まります。
深層学習に必要な演算はCPUではなく、グラフィクス用プロセッサ(GPU)が用いられました。GPU大手のNVIDIA社(本社カリフォルニア州サンタクララ)は2006年GPU向け並列処理プラットフォームCUDA( Compute Unified Device Architecture)を発表。プロセッサ能力を最大限活用した並列処理ができるようになり、それ以降パソコンの汎用GPUが深層学習に欠かせないデバイスとなったのです。
NVIDIAはAIブームで会社価値を上げ、時価総額は2021年2月末時点で約39兆円、インテル(約27兆円)を超える世界最大の半導体会社です。
※TrioAM作成
よろしいですか?