米国にとっては「far west」の話 井上 哲男『相場の潮流』
配信日:2017/08/30 08:36
昨日、北朝鮮のミサイル発射を受けて、朝方シカゴ市場で先物が1万9045円まで売られる場面のあった日経平均であるが、日本時間での対応は狼狽売りが出されることもなく、前日比87.35円安、率にして0.45%の下落にとどまった。
これはアジアの他の市場、特に北朝鮮リスクに無関係な市場が確り(しっかり)であったことが影響したのかもしれない。中国の上海総合指数は3日続伸、その3日とも年初来高値を更新しており、香港ハンセン指数は0.35%下落したが、前日まで6連騰し、約3週間ぶりに年初来高値をとっていたことから利喰いが出された程度の下げ。また、日本同様に“当事国”である韓国KOSPIの下落率も0.23%と軽微であったことも日本市場の“下支え”となったと考えられる。
しかし、昨日の相場は、メイン市場が変わる度に、市場の雰囲気がガラリと変わった印象を受ける。
日本市場が引け、メイン市場が欧州に変わった頃から、ダウなどの米国株式先物も大きく下落し、為替も再度の円高、米国債の金利低下と、リスクオフの象徴現象が起きた。休場明けのロンドンFTSE100は言うに及ばず、ドイツDAX、フランスCAC40も寄りつきから大きく下落し、それぞれ、開場後しばらくすると、それぞれ、3日続落、5日続落がほぼ決定したかのような状態となり、日経平均先物(ラージ)も、夕刻17:15に日中大引け(15:15)の1万9380円から140円安い1万9240円まで売られた。日本市場が引けてから、何も材料の無いなか、2時間で140円の下落。「しまった。海外は大きくこれを材料視した」と焦った向きも多かったと思う。
しかし、この流れは、欧州が引け、米国市場のみがメイン市場となった頃から大きく変わることとなる。米国単独開場時間にダウは安値からちょうど200ドル切り返し、ザラ場で一時14.34%にまで急上昇していたVIXも急落し、結果的に引けは「MD」に記したように11.70%と、“異常値12%割れ”水準となった。
昨日、初のJアラートが発令され、日本は大きな脅威を感じたが、“待てど、暮らせど”大統領を含む米国高官のメッセージは何も発表されず、大統領のコメントが出されたのは、緊急の国連安保理開催決定などのニュースが出たずっと後のことであった。
これは、先週25日に3発のミサイルが発射された際と大違いである。このときに米国は3発のミサイルについての解析を当初誤って発表し、その後訂正するという“恥”をかいている。「えっ、結局その程度の解析能力?」と北朝鮮に思われたかもしれない。
今回はそれもあって時間をかけ、慎重なコメントを発表したとも考えられるが、私には、一般紙の電子版報道の遅さからも、「正直、日本海に着弾しようと、太平洋に着弾しようと、大差ない、どちらも“far west”の話」という匂いを感じてしまう。
それがあっての切り返しである。
日経平均先物も大阪早朝の引けで1万9470円にまで戻っているが、現段階での買いは慎重になるべきと判断している。理由は2つ。
1つはテクニカル的な調整の不十分さ。「Sign」に書いたようにRSI14のみの点灯状態であり、25日移動平均乖離率は日経平均だけでなく、米国ダウも全然買うには足りない水準である。
もう1つは、昨日見られた大口クロスの連発、昼休みのバスケットのみならず、立会い外でザラ場時間中に見られた日経平均先物1459枚出来などは、(出来た)価格から見て明らかに売り手が存在したもの。この大口ロットを飛ばせるのは、海外勢でしかない。「far westで自国のリスクは感じないが、(投資家の資金を運用している以上)現在、日本株を買うわけにはいかない。(何かあったら投資家に説明できない)」ということであろう。(昨日、リスクオフに絡んだ動きと断定はできないが、債券市場でも尋常でない5000枚のオプションも1発で約定している。)
今日、英国のメイ首相が来日するという。このタイミングで日本に向けたミサイル発射はさすがに自重すると思われるが、ここは買わない。静観する。
よろしいですか?